「科学者が脳と心をつなぐとき」~父と母と私が織りなす50年の物語~

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「科学者が脳と心をつなぐとき」~父と母と私が織りなす50年の物語~  NPO地域精神保健福祉機構(コンボ)発行 糸川昌成著 (1400円+税)

糸川昌成先生から新刊が届いた。 糸川先生の日常(研究風景)を切り取った表紙がとても素敵な本だ。

糸川先生とは「母親が統合失調症」という繋がりで交流がある。 初めてお会いしたのは2012年の5月2日。 日本評論社の企画した「子ども対談」でのことだった。(「統合失調症のひろば」2015年春号に掲載)

糸川先生は分子生物学者で統合失調症の遺伝子研究をされているのだが、糸川先生の研究チームが発見した「カルボニルストレス」は薬が効きにくく回復に四苦八苦させられている家族に希望を与え、家族会のメンバーからよく名前があげられる医師だったので、そんな話題の医師が自分と同じ「子ども」の立場だというカミングアウトにかなり驚き興奮させられたものだ。

夏苅先生と糸川先生と3人で初めて会った日のことは、私の人生の中で大きな出来事のひとつになっている。
夏苅先生とは奇っ怪な行動をとる母親に対しての不安感や生活での緊張感など、「そうそう、それそれ!」といったように共感できる話題が多いのだが、母親の存在を知らされずに過ごし、生きて会うことが叶わなかった糸川先生の苦悩は「あぁ、こういう状況もあるのだ」と気づかされ大きな衝撃を受けた。 そして…「喜怒哀楽」を母とともにできることへの感謝を改めて思い出させてもらった。

「ともに生きることができる」ということは有り難い、と。
糸川先生の人生と母の突然の死で思い知らされたので、以前よりも今の私は目の前の人との時間を大切にするようになったと思う。

本の紹介から話しがそれたが、この本は「こころの元気プラス」でお馴染み、NPOコンボの発行だけあって、 とても読みやすい内容になっている。

第2部 ミクロの世界から病気の原因を解明する旅 では統合失調症の遺伝子研究の様子やカルボニルストレス発見までの経緯が興味深い。 また、「統合失調症は100人に1人がかかる病気」と言われているけれど、最近の研究では「100人に1人」はそれほど正確ではなく 地域や調査時期によって、統合失調症を経験する人の割合が4倍も違っていたことがわかってきた。 というのが、とても印象に残った。

第3部 家族のリカバリー には「家族」の立場からの想いが書かれていて、「私が母の主治医だったら」という項目にあった、 家族への病気の説明は「私も幼少期、こういうふうに主治医から教えてもらえたら」と思わされる内容だった。

「抗精神病薬は脳に作用するが魂に作用しない」。

この言葉は第4部のエピローグに書かれているが、…ほんと、この一言に尽きるのだと思う。 魂に作用する部分を大きく伸ばすことが回復には重要であると…20年前に知っていたら、今頃きっと違う人生だったかも

魂に作用する(魂を手当する)ことは、心の病の予防薬になるので、これからの自分自身に役立てようと思う

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糸川先生の研究をもっと詳しく知りたい人は…

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「臨床家が なぜ研究をするのか」~精神科医が20年の研究の足跡を振り返るとき~ 星和書店発行 (1900円+税)