あらゆる女性の在り方が、常識のように認められる世界になればいいー。映画『ガザの美容室』トークイベントレポート到着

ガザの美容室

パレスチナ自治区、ガザの小さな美容室を舞台に、戦争状態という日常をたくましく生きる13人の女性たちを描いた映画『ガザの美容室』が6月23日より、アップリンク渋谷、新宿シネマカリテほか全国順次公開となる。
このたび、本作の先行特別試写会が6月11日(月)にアップリンク渋谷で行なわれ、ゲストに 批評家・映像作家の金子遊さんとアーティスト ・ 映像作家の UMMMI. さんが登壇、パレスチナの社会背景や女性たちについて熱いトークが繰り広げられた。以下、トークレポートを掲載。

『ガザの美容室』先行特別試写会トークイベント概要

■日時:2018年6月11日(月)
■会場: アップリンク渋谷(東京都渋谷区宇田川町37?18 トツネビル1階)
■ゲスト:金子遊さん( 批評家・映像作家)、 UMMMI.さん ( アーティスト ・ 映像作家 )

2012年11月にパレスチナを訪れた金子遊さんは「パレスチナへ行くのに、いくつものチェックポイントをこえないといけないし、閉じ込められる閉塞感というのがとても理解できた。パレスチナ人に招かれて家に行ったことがあるけど、男たちは男たちでつるんでいる。女性たちは奥の台所がテリトリーであって、この映画でも美容室の外側は男性たちの世界で 、まさにそういったことがこの映画で描かれていた 」と説明する。

この映画を観で、劇作家の平田オリザさんの話を思い出したというUMMMI.さん、「平田さんのご実家の隣が床屋さんだったようで、その床屋さんには髪を切りに来る人以外にも、将棋をしに来る人もいたりしたそう。実際に日本でも、何をしているかわからない人が美容院や床屋に集まったりしていて、この映画を観てそんなエピソードを思い出しました。彼らはきっと無駄な時間を過ごす言い訳にしていたのではないのかな。何もしないために、しかも待つことを理由にできる場所が存在するって希望じゃないですか」と語る。
続けて金子さんは、「映画の中である一人の女性が“もし私が大統領なら、女だけの政府をつくるのに”というセリフが登場するけど、本当にそうなったらいいなと思います。例えば、ハマスの幹部が女性だったり、ファタハの首相が女性であったりしたら、また違うパレスチナの形があるのかもしれない。政治的に女性が権力を握って対峙していくのか、それとも違う原理で女性は女性らしさとして抵抗していくのかという二つの解決策がこの映画で提示されているのかと感じました」と解説。
その発言を受けUMMMI.さんは「両方できたらいいですよね。政治にも参加していくし、女性らしい方向を守る人は守り、あらゆる女性の在り方が常識のように認められる。これは決して遠い海の向こうの話ではなく、日本も一緒だと思います。そういうことが常識になればいいと思います」と語気を強める。

最後に金子さんは、「今みなさんが観た『ガザの美容室』や、他のドキュメンタリー映画でもいいのですが、彼らが感じているものを、論理的ではなく感覚的に、音や映像、身体の恐怖感として映画というものは感じさせてくれる。この映画を観た後で、どうしても僕はパレスチナことを考えざるを得ないし、パレスチナ人のことを思わざるを得ない。だからみなさんも、ご自宅に持ち帰って考えてもらいたいです」と締めくくった。
映画『ガザの美容室』は 2018年6月23日(土)より、アップリンク渋谷、新宿シネマカリテ ほか全国順次公開。

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プロフィール

金子遊(かねこ・ゆう) 批評家・映像作家。
慶應義塾大学ほか講師。著書に『辺境のフォークロア』『混血列島論』ほか。編著に『クリス・マルケル』『アピチャッポン・ウィーラセタクン』『映画で旅するイスラーム』など。ドキュメンタリー映画に、ヨルダンやイラクに取材をした『ベオグラード1999』、ヨルダン川西岸地区で撮影した『万葉律パレスチナ』などがある。ドキュメンタリーマガジンneoneo編集委員。

UMMMI. アーティスト / 映像作家。
愛、ジェンダー、個人史と社会を主なテーマに、フィクションとノンフィクションを混ぜて作品制作をしている。過去に現代芸術振興財団CAF賞 美術手帖編集長 岩渕貞哉賞受賞(2016) イメージフォーラムフェスティバルヤングパースペクティブ入選(2016) MEC AWARD2016 佳作(2016) 第7回カイロヴィデオフェスティバル入選(2015) ポンピドゥーセンター公式映像フェスティバルオールピスト東京入選(2014) など。
公式サイト:http://www.ummmi.net/

オシャレする。メイクをする。
たわいないおしゃべりを、たわいない毎日を送る。それが、私たちの抵抗。

パレスチナ自治区、ガザ。クリスティンが経営する美容院は、女性客でにぎわっている。
離婚調停中の主婦、ヒジャブを被った信心深い女性、結婚を控えた若い娘、出産間近の妊婦。皆それぞれ四方山話に興じ、午後の時間を過ごしていた。しかし通りの向こうで銃が発砲され、美容室は戦火の中に取り残される――。

極限状態の中、女性たちは平静を装うも、マニキュアを塗る手が震え、小さな美容室の中で諍いが始まる。すると1人の女性が言う。「私たちが争ったら、外の男たちと同じじゃない」――いつでも戦争をするのは男たちで、オシャレをする、メイクをする。
たわいないおしゃべりを、たわいない毎日を送る。それこそが、彼女たちの抵抗なのだ。

第68回カンヌ国際映画祭批評家週間に出品され話題を呼んだ本作は、ガザで生まれ育った双子の監督タルザン&アラブ・ナサールによる初の長編で、戦争状態という日常を生きる女性たちをワンシチュエーションで描き、戦闘に巻き込まれ、監禁状態となった人々の恐怖を追体験する衝撃作である。

戦争中であっても、彼女たちは常に人生を選択している。僕たちは“虐げられたパレスチナの女性”ではなく、人々の暮らしを、死ではなくて人生を描かなきゃならないんだ
――タルザン&アラブ・ナサール監督

ガザの美容室

作品タイトル:『ガザの美容室』
出演:ヒアム・アッバス、マイサ・アブドゥ・エルハディ、マナル・アワド、ダイナ・シバー、ミルナ・サカラ、ヴィクトリア・バリツカほか
監督・脚本:タルザン&アラブ・ナサール
(2015/パレスチナ、フランス、カタール/84 分/アラビア語/1:2.35/5.1ch/DCP)
字幕翻訳:松岡葉子
提供:アップリンク、シネ・ゴドー
配給・宣伝:アップリンク

公式サイト:www.uplink.co.jp/gaza/

2018年6月23日(土)、アップリンク渋谷、新宿シネマカリテほか全国順次公開

記事提供:映画・ドラマニュース

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