レビュー
嫌う前にまずは相手を知ることから
素敵な映画だった! 19世紀後半、イギリスのヴィクトリア女王と、インドからやってきたアブドゥルとの間に芽生えた絆を描いた作品 彼らが出会ったきっかけは、ヴィクトリア女王の在位50周年の式典だった アブドゥルは、インドで発行された記念コインを女王に献上するために「背が高くてイギリス人に負けず見栄えがするから」という理由で選ばれ、式典に出席する その式典で女王はアブドゥルを一目見ただけで好意を持ち、彼を側に置くようになり、そこから絆が生まれていく 私は、その時の女王の気持ちが分かる気がした アブドゥルのピュアな笑顔を見た瞬間に夢中になったヴィクトリア女王は、 韓国の俳優やアイドルに夢中になってしまう私たちと同じだと思ったからだ 日頃、仕事や家庭の忙しさに気分が滅入っている時、休み時間にネットを見ては、アイドルの笑顔に癒される… ヴィクトリア女王もまた、王室の人間関係からくるストレスフルな日々も、アブドゥルの笑顔で癒されるようになる アイドルや俳優の笑顔に癒され、そこからはまった私たちは、彼らの国を知りたいと思い、言葉を学び、韓国料理を食べ、文化を知りたいと思うようになる ヴィクトリア女王もまた、アブドゥルの話す言葉を学び、インドの食べ物や文化に興味をもつようになるのだ そして、すっかりアイドル沼にはまった私たちが、周りから白い目で見られるように、 女王もまた、周囲から白い目で見られるようになり、孤立無援になってしまう そんな女王の孤独を理解してくれるのが、アブドゥルだけだからこそ、女王はますますアブドゥルとの絆を深めていく… そして、韓国好きたちの行動に対抗するように、嫌韓の人たちがヘイトスピーチを浴びせかけるように ヴィクトリア女王のアブドゥル贔屓は、政治を巻き込む論争へと発展していく そこに、この映画が「今」描かれる意義がある アブドゥルは、キリスト教徒が対立し続けてきたイスラム教徒だったからだ ヴィクトリア女王が、ただインドから来た人と仲良くしていたから問題なのではなかった イギリス国教会の首長である女王が、イスラム教徒と親密な関係にあるから、問題になってしまったのだ しかし、それから100年以上経った現在、未だに、イギリスがかつて植民地にしていたインドやパキスタンから移民を受け入れるかどうかで論争が起きている そんな今だからこそ、ヴィクトリア女王の「相手の国を知ろうとする姿勢」に学ぶべきことがあるのではと感じるのだ 日本のおばさんたちが、韓国のアイドルや俳優に夢中になるのと、 イギリスの女王がイスラム教徒に夢中になるのでは次元が違うと思うかもしれない しかし、国民の長である女王だからこそ、模範となるべき姿を見せるべきなのではと思う 相手に自分のことを知って欲しいと思うなら、まずは、自分から相手のことを知るべきで、 お互いに知り合ってこそ、真の信頼関係が築けるのではと思う 現在の移民排斥の風潮をヴィクトリア女王が見たら、なんと思うだろうか きっと悲しくて涙を流すに違いないと思う 多くの人に彼らの友情を知って欲しいし、そこから、たくさんのことを学んで欲しいと思った 本当に素敵な映画なので、興味のある方はぜひ
鮮やかに蘇る奇跡の物語
英国ヴィクトリア女王の晩年、1880年代後半からの物語が、ジュディ・ディンチの唯一無二な存在感と相呼応するかのようなアリ・ファザルのまっすぐな演技、そして当時の目を見張る絢爛豪華な宮廷の様子を背景に奇跡としか思えない史実が綴られます。 アネモで参加させて頂いた試写会の上映前には、映画に因んだゴージャスな装いのデヴィ夫人が登壇。さすがに社交界の知識(最近はバラエティも)に長け、ヴィクトリア様式ヴィクトリア調という言葉もあるよう、彼女の果たした役割、当時の様式美についてなど面白いお話をいっぱい伺うことができました。 またデヴィ夫人ご自身も2010年インドで発見された驚くべき日記や写真から誕生した本作に夢中になられた様子で、チェックポイントもしっかり教えてくださいました。 背が高いという理由でコインの献上者に選ばれ、よりインド人っぽく見えるという理由で、インド人もびっくりな豪華デザインの衣装を着せられ、あれよあれよとイギリスに連れて来られたり、女王の1日の始まりから会食シーンetc.クスッと笑えるシーンもふんだんに、ある種の滑稽さが付きまとう時代感もユニークです。 63年もの永きにわたり女王として君臨し、たくさんの子供や孫に恵まれながら、誰ひとり心から打ち解けられず、年と共に頑なになっていったであろう彼女の好奇心を呼び覚まし、本来の魅力を引き出したインドの若者″ムンシ(心の師)″からウルドゥー語を学ぶシーン、心が洗われるようです。 実際、彼が本当にピュアな気持ちの持ち主なのか、それとも実は野心家だったのかどうか、今となっては分かりかねるのでしょうが、少なくとも女王の周りに野心のない者などいなかったので、野心家だったとしたら珍しくもなく、女王の心に響くものなどなかったのだと思えます。 ヴィクトリア女王生誕200年にあたる年に、秘められた真実の物語がこんなに愛おしくなるエンタティメントとして蘇るなんて! ゴージャスで美しい背景のなか、茶目っ気あるふたりの心の交流がとんでもなく魅力的です☆