レビュー
集団心理の恐ろしさ
吉田修一さんの「犯罪小説集」全5編の中から「青田Y字路」と「萬屋善次郎」の2編を映画化したもので2つの物語をつなぐ紡という女の子の12年後のドラマに新しいエピソードを加えて膨らませているのがうまいなと思いました。 よそ者を排除する閉ざされた場所に住む村人の怖さと狂気が生々しく伝わってきて集団心理の恐ろしさが私達が住んでいるリアルな世界とリンクしていてより強く印象に残りました。
二つの物語の対比
ファーストシーンの、美しく揃いすぎている水田から引き込まれました。(俯瞰の空撮から始まる映画が好きなので嬉しい) てっきりY字路の物語だと思っていたので、途中から善次郎が出てきて、なんだかテーマが分散したイメージでしたが、 エンドロールを見たら、二つの短編の映画化だったのですね。失礼しました。σ^_^; それを踏まえて見たほうが良いかもしれません。 あえて二つの短編を絡めたことで浮かび上がるのは、閉ざされたコミュニティ。 人々の距離が近くて、皆んなが知り合い。 そんな中で起きた未解決の事件は、誰だか得体の知れない者が村に入り込んだという恐怖で、村人達を疑心暗鬼にしてゆく… 村の顔役達は、面倒見が良くて頼れる存在だが、誰も彼らには逆らえない… 暴走してゆく村人達には集団の狂気を感じますが、 自然豊かな農村に限らず、都会でも学校や職場という閉ざされた社会の中では同じ事が起きているのではないでしょうか? 息苦しさから、若者たちが外へ出て行ってしまうのも分かる気がするし、一度狂った歯車から逃れられずに自滅してしまうよりは、新たな世界で一歩を踏み出す方が良い時もある。 ただ、私も故郷から離れた人間なので、すごく久子のセリフに共感出来るのですが 若い頃は嫌っていた筈の街並みが、気づくと自分の大切な場所になっていたりする。 それだけ歳を取ったという事なのでしょうが、故郷とはまったく厄介な場所です。 綾野剛が難しい役どころを演じきっていて、見応えがありました。 柄本明の村の世話役っぷりがイイ。 揉め事の仲裁も慣れたもんで、普段は何でも任せて安心な親分肌だろうに… 大人気なく紡を責め立てる言葉には、やり場のない怒りと悲しみを感じました。 ご本人には不本意かもしれませんが、根岸季衣さんとの夫婦のシーンが角替和枝さんとダブって、小さな呟きに胸が締めつけられました。 実は今まで、佐藤浩市さんの熱い演技が苦手だったのですが、今回は枯れた感じが相まってとても良かったです(T_T) 体を張った熱い演技に釘付けでした。 『楽園』はどこかにあるものではなく、自分で作るもの。 辛いながらもこれから楽園を作っていく者と、楽園に囚われた者の対比となっていて、この二作の短編をまとめた意味がわかった気がしました。
佐藤浩市さんの演技
Y字路で起こった未解決の少女失踪事件があった村でその12年後に少女が行方不明になり村の人々の人生が複雑に交錯していく様を映し出すサスペンス大作。 佐藤浩市さんの村八分になり村人たちから謂れの無いことを噂され孤立して壊れていく様は流石だと思いました。