ひとよ

2019-10-09
(C)2019「ひとよ」製作委員会

壊れた家族は、つながれますか。あまりに切ない“母なる事件”から15年。希望を夢見た者たちのゆく末は―

どしゃぶりの雨降る夜に、タクシー会社を営む稲村家の母・こはる(田中裕子)は、愛した夫を殺めた。 それが、最愛の子どもたち三兄妹の幸せと信じて。そして、こはるは、15年後の再会を子どもたちに誓い、家を去った―
たった一晩で、その後の家族の運命をかえてしまった夜から、時は流れ、現在。次男・雄二(佐藤 健)、長男・大樹(鈴木亮平)、長女・園子(松岡茉優)の三兄妹は、事件の日から抱えたこころの傷を隠したまま、大人になった。抗うことのできなかった別れ道から、時間が止まってしまった家族。そんな一家に、母・こはるは帰ってくる。15年前、母の切なる決断とのこされた子どもたち。皆が願った将来とはちがってしまった今、再会を果たした彼らがたどりつく先は―

監督は、2013年『凶悪』を世に送り出して以降、『彼女がその名を知らない鳥たち』(17)、『孤狼の血』(18)など、毎年のように賞レースを席巻、名だたる俳優たちがいまもっとも出演を熱望する白石和彌。主演の佐藤健は稲村家・三兄妹の中でも特に複雑な内面を抱えているフリーライターの次男・雄二を、鈴木亮平は電器店に勤務し、妻との関係も上手くいっていない“愛に怯える頼りない長男”大樹を、そしてスナック勤務で崩壊した家族の絆を再び結びつけようとする長女・園子を松岡茉優が演じ、それぞれ白石組に初参加したのも話題となっている。

11月8日(金) 全国ロードショー
公式サイト

キャスト

佐藤健、鈴木亮平、松岡茉優、音尾琢真、筒井真理子、浅利陽介、韓英恵、MEGUMI、大悟(千鳥)、佐々木蔵之介・田中裕子

スタッフ

監督:白石和彌
脚本:高橋泉
原作:桑原裕子「ひとよ」
企画・制作プロダクション:ROBOT
PG12
製作幹事・配給:日活

※高橋泉さんの「高」は、正しくは“はしご高”が正式表記となります。

レビュー

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どの人物にも共感できる

評価: ★★★★★ (5点) 投稿者:Shiron!2019-10-12

田中裕子さんをキャスティング出来た時点で、名作確定でしょう!! 人物の過去が透けて見える、大好きな女優さんです。 他にも筒井真理子さん、松岡茉優さん、韓英恵さんと、なんとも豪華! 旬の実力派女優さん達のフルコースに大満足でした。 一つ一つのエピソードがどれも印象深く、一つ一つのシーンが目に焼き付いているのですが、どれもネタバレになりそう… せっかく白石監督のティーチインで貴重なお話しが聞けたことですし、裏話などを紹介しつつ、個人的に感じた事をレビューしたいと思います。 元は戯曲だそうです。『母帰る』ですねww 三兄弟のキャスティングについては、佐藤健さんが決まって、そこから年齢などのバランスを考えてオファーしたらしいのですが、 インタビュー中に何度か「どうなるか楽しみだった。」とおっしゃっていたのを聞いて、 自分が白石監督作品のどこに惹かれているのかがわかった気がしました! 私はとくに『日本で一番…』や『牝猫たち』で描かれる、人の欲望で出来たような繁華街が大好きなのですが 70年代のアバンギャルドな映画に通じる熱量を感じて興奮します。 白石監督はきっと、自分の伝えたいテーマやメッセージよりも、フィクションの中のリアルをフィルムに焼き付けたい派に違いない!(←あくまでも個人の意見です) だから、あんなにも生々しく映像が迫ってくるのか! 完璧な作り物の中で起こる化学反応を楽しんでいるように感じました。 「こんなシーンを撮りたい」よりも「このシーンはどんなシーンに出来上がるのか?」を楽しんでいるような。 でも、それって役者に対してもスタッフに対しても信頼が無いと出来ない事ですよね? そう言えば、監督はお気に入りのシーンで笑うらしいのですが、佐々木蔵之介さんが感情を爆発させるシーンは、牽引車に乗っていたこともあって、笑いながら撮影していたそうです。 佐藤健くんの熱量はもちろん、松岡茉優ちゃんのアドリブ。三人が兄弟に見える瞬間や(←中庭のタバコシーンは、直前にしていた会話をそのまま追加したそうです) 役作りの為に半年の間、他の仕事をセーブして白髪を伸ばした田中裕子さん。別の作品に出演しているうちから吃音の練習を始めた鈴木亮平さん…。 「役者ってすごいなと思う。」という監督の言葉には 役者に対してのリスペクトと、冷静な眼差しを感じました。 自分の理想プランに近づける事をしない分、早撮りに違いない。 だから、年に3本も公開出来るのだな。_φ( ̄ー ̄ ) 早撮りと言えばクリント・イーストウッド監督が有名ですが、似ているようでいてちょっと違うかも? その場で起きる生の感覚を大切にしているのは同じかもしれませんが、イーストウッド監督は役者が芝居をしすぎないように意識している気がします。 白石監督は逆にもっとやれ!もっとやれ!って感じですよねww イーストウッド監督は「正義とは?」を描き続けていて深い感動に包まれますが、白石監督の作品には逆に“正しいこと”への価値観を覆す手厳しさに痺れます。(たとえば『牝猫たち』の子供を預かる男とか。) でも、両方に共通するのはユーモア! とくに『ひとよ』は笑えるシーンが多かった! クスクスやニヤリではなく、声を出して笑えるのに、映画のトーンを壊さず物語が途切れない。 笑いが入ることで、複雑で面倒くさい人間達が豊かな愛すべき存在になる気がします。 聞き手の方が「音尾琢真 大喜利」と名付けていましたが、ホント音尾さんは笑いを持っていってました。 そして、実は物語のキーマンでもある。 監督曰く「タクシー会社は疑似家族で、本当の家族より家族らしいところがある。」 「血の繋がっている家族と、疑似家族。その中間に位置するのが、音尾琢真さん演じる “いとこ” の進。」なるほど。確かに中間で、一連の被害者でもあるけれど、遠慮なく感情をぶつけるほどの近さは無い。 橋のシーンでの音尾琢真さんのセリフは物語のキーポイントとなっているようです。 愛するシーンの数々を書き連ねたい気持ちですが、ネタバレにならなそうなシーンを一つだけ。 やはり私は母親目線なので、再会のシーンに胸が熱くなりました。 それまでの思いの深さを感じさせる名シーンですので、ご堪能ください。