レビュー
『空』と『白』。
『愛しのアイリーン』に続き、ものすごい映画でした。 さすがはスターサンズ。さすがは吉田恵輔監督。 とにかく見て欲しい! もう、レビューなんかを書くのは野暮でしかないと感じます(^-^; 『空白』のタイトル通り、誰しもが多かれ少なかれ心に空白を持っている。 それを埋める為に何かに依存したり、何かに八つ当たりしてしまったり。 人によっては承認欲求としてあらわれたりするのかも? 激しく行き過ぎた行動の裏には、大きな空白と一方的な主観しかなく、周りが見えない状況は自分自身をも見えなくしてしまい… いや、むしろ自分自身を見つめたくないから、盲目的な怒りやストレスの吐口となって攻撃性がエスカレートするのか。 主観だけでは見えていなかったことが、相手の立場になって初めて見えてくることがある。 キーとなるエピソードしかり。 自分とは異なる主観に触れた時、逆に自分を見つめ直すキッカケになるのではないでしょうか? この映画で特筆すべきは、ほんのチョイ役の主観まで非常に丁寧に描き出しているところ。 ばあちゃん、バスの中の少年たち、同僚の教師や、弁当屋の客、ボランティア仲間に、もちろん警備員仲間も。 主人公の物語を動かす為だけに存在する人物が一人もいない。 『愛しのアイリーン』が三つ巴の主観だったとしたら、『空白』は何十人もの主観が入り混じっている。 最初は隅々まで行き届いた人物描写に興奮していましたが、ただそれだけではないことに気づきました。 今の風潮では、一つのテーマに対して一つの見解を示すことは、それだけで「多様性に配慮がない」と誤解されやすい。 私が見たいのは作家性の強いブッ飛んだ作品なのだけれど、そういった作品は偏った主義主張だと捉えられかねないので、なかなか作りづらくなっているのではないかと危惧していました。(回りくどい表現ですみません) そんななか本作は、全ての登場人物の主観をきちんと描くことで、一つの事件に対する様々な人の見解を盛り込み物語に多面性を与えている。 更にそれだけではなく、デリカシーの無い言動の裏にあるのは個々の埋められない空白であることも浮き彫りにしている。 お弁当屋のエピソードが大好きなのですが、ラストの独り言が最高に響きました。 一つの見解だけにとどまらず、良くも悪くもいろんな立場の人物を描き、しっかりテーマに着地させている。私なんぞの危惧を吹っ飛ばす文句なしの映画でした。 正義を振りかざす暴力はSNSでもよくあるけれど、そこに切り込むのは、かなりリスキー。 さすがはスターサンズ。 正義感が強すぎる人を描くのも、一歩間違えば、かなりリスキーだけれども、あくまでも一人の人間の満たされない空白を描いている。 さすがは吉田監督。 さすがは寺島しのぶ。 ずっと撮影監督は志田貴之さんなのですね。 花音の登場シーンの素晴らしさ。 前髪を撫でつける仕草に、垢抜けない中学生に芽生え始めた大人の色気があって、後のマニュキュア万引き疑惑に繋がる揺らぎが感じられます。 鮎子ちゃんも、大きくなったなぁ。 そして、キモとなる片岡礼子さんの演技の素晴らしさ。 もちろん娘さんの役者さんも素晴らしかった! パートの女性は『アイリーン』のお見合い相手でしたね。(桜まゆみさん) あの演技が大好きなので嬉しかったです。 実はあまり役者さんの顔を覚えられないのですが、不思議なユーモアと色気のある役者さんなので珍しくピンときました。( ̄∀ ̄)(←ちょっと得意げ) そして、田畑智子さん。 チャーミングだけど、狂気や修羅場を乗り越えた肝の据わった役が最高にハマりますね。 大好きな役者さんです。 『空』と『白』。 ラストに感じる親子の繋がりに号泣でした。
凄い演技!
試写会にて。 振り上げた拳をどうして良いのか、怒りの矛先を何処に向けて良いか、加害者も被害者ももうどうして良いか分からない苛立ちがヒリヒリ伝わって来て辛かったです。登場人物全てに「私だったら?」と自分を重ね合わせて考えさせられました。こんな辛い物語の末に「救いは何処にあるのか」は、終盤でちゃんと回収されていて見事でした!古田新太さんの雰囲気が少しずつ変わっていく繊細な演技が素晴らしかったです!