未来を乗り換えた男

2018-11-26
(C)2018 SCHRAMM FILM / NEON / ZDF / ARTE / ARTE France Cinéma

<『東ベルリンから来た女』監督最新作>ナチスによる悪夢的史実と現代の難民問題を驚くべき発想で重ね合わせた野心作!

現代のフランス。祖国ドイツで吹き荒れるファシズムを逃れてきた元レジスタンスのゲオルクは、パリから港町マルセイユにたどり着いた。偶然の成り行きから、パリのホテルで自殺した亡命作家ヴァイデルに成りすまし、船でメキシコへ発とうと思い立つ。
そんなときに一心不乱に人を捜している黒いコート姿の女性マリーと出会い、美しくもミステリアスな彼女に心を奪われていく。しかしそれは決して許されず、報われるはずのない恋だった。なぜなら、マリーが探していた夫は、ゲオルクが成りすましているヴァイデルだったのだ......。

2018年 べルリン国際映画祭コンペティション部門出品
べルリン国際映画祭銀熊賞を受賞した『東ベルリンから来た女』や『あの日のように抱きしめて』など、歴史に翻弄された人々の数奇な運命を描き、ドイツを代表する名匠となったクリスティアン・ぺッツォルト監督。作家アンナ・ゼーガースが1942年に亡命先のマルセイユで執筆した小説「トランジット」を、現代に置き換え映画化した。
ユダヤ人がナチスの理不尽な迫害を受けた戦時中の悲劇と、祖国を追われた難民をめぐる問題が深刻化している今の状況を重ね合わせるという大胆な試みを実践した野心作。
別人に成りすますことで新たな未来へ乗り換えようとする元レジスタンスの青年と、夫を捨てた過去に縛られている謎めいた美女。船による国外出航のタイムリミットが迫りくるなか、運命の悪戯でめぐり合った男女の危うい恋の行方をサスペンスフルに描き出す。
主人公ゲオルクを演じるのは、ドイツ映画賞6部門を制した『ヴィクトリア』、巨匠ミヒャエル・ハネケの『ハッピーエンド』といった話題作に相次いで出演し、2018年ベルリン国際映画祭にてシューティング・スター賞を受賞したフランツ・ロゴフスキ。そしてファムファタール的なマリーには、フランソワ・オゾン監督作品『婚約者の友人』にて、セザール賞やヨーロッパ映画賞にノミネートされたパウラ・べーアが扮している。

2019年1月12日(土)より ヒューマントラストシネマ有楽町、新宿武蔵野館ほか全国順次公開 
公式サイト

キャスト

フランツ・ロゴフスキ、パウラ・べーア

スタッフ

監督・脚本:クリスティアン・ぺッツォルト
原作:アンナ・ゼーガース著「トランジット」
挿入歌:トーキング・ヘッズ「ROAD TO NOWEHRE」 
2018 |ドイツ・フランス合作|102分|デジタル5.1ch |シネスコ|原題:TRANSIT |日本語字幕:吉川美奈子
協力:ゲーテ・インスティトゥート東京
提供:ニューセレクト
配給:アルバトロス・フィルム

レビュー

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昔も今も、人が人を排斥する現実

評価: ★★★★★ (4点) 投稿者:とえ2019-01-10

今、ヨーロッパで起きている難民排斥問題について、いろいろと考えさせられた作品だった 1942年の第二次世界大戦下のドイツで、迫害に遭った小説家アンナ・セーガースが亡命先のマルセイユで執筆した小説「トランジット」を、現代を舞台に置き換えて映画化した作品 その「トランジット」が書かれた1942年当時、迫害と言えば、ナチスドイツがユダヤ人を迫害していたことを思い浮かべる そして、誰もが、ユダヤ人迫害なんて、二度としてはいけないことだと思うし、ナチスドイツは悪だと思うはずだ しかし、その話を現代に置き換え、迫害されているのは誰かと考えると、それはヨーロッパに入ってくる難民であり、移民なのである しかし、そのことに対して、誰もファシストだとは言わないし (言っている人がいても、大きな声にはならない) 難民や移民が連行されても、当然だと思っている人もいる この映画は、時代設定や、迫害されている対象を曖昧にし、 さらに、主人公を国を追われてフランスに逃げ込んだドイツ人にしている そうすることで 現在のヨーロッパでは、いつ、どこで、誰が迫害され、住む場所を追われるかわからない状況にあることを表している そして、その言葉通り、主人公ゲオルグが出会った人にたちは、次々と姿を消していくのだ そこで思う 国家や、国境というのは何のためにあるのか もしも、ドイツ人が、フランス人のIDを盗んでフランス人になりすますことができるなら、そもそも、そんなIDなんて必要ないのではないか フランス人になりたい人がいて、密入国をした上で、自分と近い年頃のフランス人を殺して、その人なりすますことも可能ではないのか それよりも、その国で暮らしている人たちが、そこで生活をしていられるのであれば、排斥する必要はないのではないか 生まれた国を追われたり、生活していくことが大変になってしまった人が 他の国で暮らすことに居心地の良さを感じているなら、そこで暮らせるのが一番良い しかし、今のヨーロッパでは、それが許されず 何も罪を犯していないのに、連行され、中には命を落とす人もいるのだ そんなヨーロッパの現実をヒシヒシと感じた作品だった そして、これまで「どんな人も受け入れる」と言っていたアメリカまで、その門を閉じることになれば、移民や難民は、行くあてを失ってしまう… とても抽象的な作品で、観る人によって受け取り方が変わる作品だと思うけど 「人が人を排斥する現実」について、考えずにはいられない作品だった 決して、他人ごとでなく「それが自分の身に起きたら…」という目線で観たい作品だった