レビュー
拍子抜けするシーンにこそ真意がある
ペドロ・アルモドバル監督によるシスターフッドムービーの集大成! 過去作のテーマの根底も明らかになります。 拍子抜けするシーンにこそ真意がある。 絵画のように美しいブラックアウトが素晴らしい。 これまで監督が描いてきたシングルマザーは、女性たちからのサポートを受けている印象がありました。 出産や育児が加わった瞬間に共同体としての結束が強まる感じ。 出産育児が一人では出来ない大仕事だとわかっている者同士の助けあいが胸熱でしが、その決断の早さにも驚かされてきました。 今までの関係を土返しにして手を差し伸べる女たちに、ちょっと拍子抜けするような場面も多々あり… たとえば、相入れない関係の筈の二人が、出産を知った瞬間に協力者になる展開とか。 今回だと抱っこ紐のシーン。アッサリ受け入れすぎて、もう一押し無いのか?と拍子抜けしました。 でも、それらの拍子抜けシーンの数々は全て、自分の感情より子供のことを第一に考えているから。 過去作の決断のスピードも、ここにあったのか! 個人ではなく、一つの命をみんなで産み育てる感覚。 子供を産み育てることは未来を作ること。 出産の経験があろうが無かろうが、実の子であろうが無かろうが、みんなで産み、みんなで育てる。 この世に生を受ける全ての存在に、無条件の愛情を注ぐ女たちの姿が浮かび上がります。 そして本作では、その女たちの助けあいの根底にある理由がクッキリハッキリ描かれていました。 内戦で男達が死に、女達は協力しあって子供達を育てるより他なかった。 死んでいった者たちが生きた証を未来へ繋ぐ為にも命を絶やすことは出来ない。 そんな必死の思いで子供を育てることが、理不尽な殺戮に屈しない女たちの戦いでもあった。 そして更に、この“女だけで協力しあって生きるしかなかった”経験により “女だけで協力しあって生きていける”ことが証明されてしまった。 シングルマザーを選んだ時点で男をあてにしていないのですが、内戦で男をあてに出来なかった女たちは、むしろ女だけで生きていく方が楽なことを知ってしまった。 争いと破壊を繰り返す男より産み育てる女が未来を作っていく。 女の敵を女に仕立て上げたのは男どもだ。女だけの社会ならキャリアか子供かの二者択一に苦しむこともない。 悪いけど、セックスの相手だって男じゃなくても良い。 (とくに本作ではこの二つの時代の変化を強調していたと感じます) 女性は未来を生み出すことが出来る。 男たちの骸が横たわる大地を踏み締めて、女たちは歩き続ける。 これからの社会をリードするのは女性的な感覚であり、独裁政権や男性的な感覚との訣別が監督からのメッセージだったように感じました。