レビュー
自分の人生を取り戻す
主役級の名優たちの共演! それぞれ強烈なキャラクターだけど、みんなどこかしらユーモラスで憎めない。 人間味あふれる愛すべき人々に感じました。 表向きにはわからないけれど、みんなそれぞれ、いろんなものを抱えている。 ラストは圧巻です! クラップ音と水滴の音が印象的。 音は空気の振動だから、一度言葉に出すと波紋が生まれ、もう元には戻れない。 息子の恋人の設定も、まさに音と波紋。 穏やかな水面に波風が立たないよう、グッと言葉を呑み込む… 筒井真理子さんの絶妙な演技が笑えます。 怒りや呆れ、様々な感情が複雑にミックスされているのに、それが手に取るようにわかる。 自分が置かれた状況をグッと呑み込む精神的負担を軽減してくれたのが、宗教だと感じました。 見返りや対価を求めてくるような神様は厄介ですが、 当の本人も、自分の心の平安を保つ為に宗教を利用しているのだから仕方ない。 でも、ちょっとした言葉がきっかけで、勇気づけられたり、人との繋がりが生まれることもある。 幾重にも重なってぶつかりあった波紋は新たな紋様になって、いつしか一つに混ざり合う。 『愛しのアイリーン』もすごかったけど、本作でも木野花さんが素晴らしかった〜! なんだかんだで女の人生は忙しい。 わかりやすいところだと、結婚して子育てが一段落した途端に介護が始まる。 人生の節目節目で自分のなかの優先順位を変える必要にせまられがち。 それに、たとえ結婚/出産を選択しなかったとしても、自分自身の体の問題には直面するだろう。 そもそも女性は、自分ではハンドリングできない女性ホルモンと共に生きていて、望む望まないに関わらず、毎月生理がやってくる。 個人差はあれど、周期を把握して傾向を分析し対策を備える。生理から解放されたと思ったら更年期症状が始まり… 突発的な出来事に対応するスキル=危機管理のPDCAサイクルを少女の頃から養っているのだ。 そりゃ〜、自然と適応能力も高くなりますよ。 そりゃ〜、子育てだって介護だって無難に出来ちゃいますよ。 でも。だけど。それだからって。ワンオペで良い理由にはならないし、同じことをしていても「やってあげたい」と思うか「やらされている」と思うかでは大違いなのです。 とにかくラストが圧巻! トークショーで、なぜこれを選んだのか?の質問に監督は「天から降ってきた。」と回答されてました。 『川っぺりムコリッタ』の“塩辛”も本当に絶妙なチョイスでしたが、確かそれも同じようにおっしゃってました。 天才かよ! 今回も、枯山水、金魚、亀、プール、サウナ、などの象徴的なアイコンが実に良い! 筒井真理子さんの「監督は撮影中カメラを通さず直接肉眼で芝居を見て判断をしてくれて、自分の感覚と合っていた。」とのコメントに監督は「演出に自信がないので、撮影監督にお任せしている。」と答えてました。 映るものに関しては撮影監督に全面の信頼を寄せていて、ご本人はカメラの横で肉眼で観て、何か足りないと感じた時にもう一回お願いする。 「自分の感覚に正直に」を大事にしているとのことでした。 研ぎ澄まされた感覚で直感を疑わずに映画を撮ってらっしゃるのだなぁ。だからあのパッションに繋がるのか。と、なんだか腑に落ちました。
ハンドクラップ音!
フラメンコのパルマ(手拍子)が要所要所で使われ、そのたびにドキッとする印象を受けましたが、スローライフのイメージだった『かもめ食堂』とは真逆の見応えでした。 新興宗教や最も身近であるはずの家族、介護などの日常を通して見えてくる闇、そんななかに意味深なシーンとブラックなユーモアも盛り込み、そして意外なラスト! 当日は主役の筒井真理子さんの登壇もあり、撮影についてお話しくださり、監督からは本当に作りたい自分らしい作品ができたとおっしゃる嬉しい時間もあり貴重な体験ができました。
表現力!
素晴らしい表現力!人間関係を波紋に見立てた監督の演出も、俳優陣の演技力も。。「全員実力派」とあるだけに、どのキャラも印象的でした。主役の筒井真理子さんはもちろん、木野花さんが素晴らしかった! 決して愉快な話ではありませんが、一捻りある作品好きな人には刺さるかもしれません!