
物語の舞台は日本。ブレンダン演じる落ちぶれた俳優のフィリップが出会ったのは、その人にとって大切な“家族”のような役割を“演じる”レンタル・ファミリーという仕事。他人の人生の中で“仮の”役割を演じることで、想像もしなかった人生を体験しはじめるフィリップ。日本での生活に居心地の良さを感じながらも、自分自身を見失いかけていた彼が思いがけず発見していく生きる喜びとは―?
本作で柄本が演じるのは、一世を風靡したものの、世間から忘れられつつあるかつての名優・長谷川喜久雄役。喜久雄の娘は、老いた父に寄り添う相手としてフィリップを雇う。かつてのスターを取材する記者を装い、喜久雄の傍らに立つことになったフィリップだが、共に時間を過ごすうちに、二人の間には嘘を越えた奇妙で深い友情が芽生え始める。
次第に、二人は食事や会話を重ねる中で、互いの孤独に寄り添うような深い絆を育んでいく。不器用ながらも互いを思いやり、年齢や文化の壁を越えて魂が呼応し合うような二人の掛け合いに注目だ。

ブレンダンは、柄本との共演に深い感銘を受け、「25年ほど前にイアン・マッケランと共演した時のことを思い出した。イギリスにはイアン・マッケランがいて、日本には柄本明がいる」と最大級の賛辞を贈っている。ブレンダンは柄本の中に、実績に裏打ちされた風格だけでなく、茶目っ気のあるユーモアやマイケル・ケインらにも共通する、一つひとつの仕事に感謝し役を全うする「働く俳優」としての謙虚さを見出したという。
柄本もまた、「撮影時は具体的な相談をしたことはなかったんですが、ブレンダンの顔を見ると自然にお芝居が出てくるんです」と語り、言葉の壁を越えた名優同士ならではの信頼関係をうかがわせている。

今回公開された本編映像は、フィリップと喜久雄がお好み焼きを囲み、心を通わせる温かいシーン。鉄板の上ではじけるソースの香ばしい音と立ち上る湯気。そんな日本の日常風景の中で、喜久雄は手際よくお好み焼きを仕上げると、「天国の味わいだ」とユーモアあふれる英語でフィリップに語りかける。
食事を楽しみながら、いつしか互いの「娘」の話題へ。フィリップが「娘と仲良くありたい」と、不器用ながらも切実な父親としての本音を漏らす場面で、彼が胸に抱いているのは、仕事を通じて“偽の父親”を演じている少女・美亜(ゴーマン シャノン 眞陽)への想いだ 。
私立校の入学審査のために雇われ、当初は「ビジネス」として父親役を演じていたはずのフィリップだったが、共に時間を過ごすうちに、孤独な彼女との間には演技を超えた本物の絆が芽生え始めていた。演技と現実の狭間で揺れながらも、一人の「父親」として彼女を支えたいと願うフィリップの葛藤が、その短い一言に重く響く。
そんな彼に対し、喜久雄は「小さい頃は、なるべく近くにいてあげなさい」と、静かに、人生の重みを感じさせる言葉でアドバイスを送る。立場は違えど、不器用な愛を抱える二人が「父親」として深く共鳴し合う瞬間が映し出されている。
柄本にとって、これほど多くの英語セリフをこなすのはキャリア初の挑戦だった。柄本はオフタイムの大半をセリフ指導スタッフとのリハーサルに費やし、一言一句のニュアンスを完璧に自らのものにしようと心血を注いだという。その徹底した役作りが、喜久雄というキャラクターに圧倒的な実在感と愛嬌を与えている。
柄本は撮影を振り返り、「僕は英語を喋れないし、ブレンダンさんは日本語を喋れない。そういう意味ではブレンダンさんと共闘できたと思います」と語っており、異なる言語の壁を越えて役に向き合った二人の現場の姿勢がうかがえる。
