映画『夏の砂の上』(7月4日公開)の完成披露試写会が6月17日に都内劇場で開催され、主演のオダギリジョーをはじめ、髙石あかり、松たか子、満島ひかり、森山直太朗、高橋文哉、光石研、玉田真也監督が舞台挨拶に登壇した。

オダギリジョー、松たか子、満島ひかり、光石研
本作は、『美しい夏キリシマ』の脚本や『紙屋悦子の青春』の原作を手掛けた長崎出身の松田正隆による、読売文学賞 戯曲・シナリオ賞受賞の戯曲を、演出家・玉田真也の監督・脚本で映画化。
物語は、息子を亡くした喪失感をきっかけに人生が止まってしまった主人公と、妹が置いていった17歳の姪との突然の共同生活からはじまる。愛を失った男、愛を見限った女、愛を知らない少女…それぞれの痛みと向き合いながら、彼らが夏の砂のように乾き切った心に、小さな希望の芽を見つけていく姿を描く。
主演に加えてプロデューサーにも名を連ねているオダギリは「いまの時代を考えると、原作がアニメや漫画でもなく、作家性の強い作品で、なかなか簡単に進むタイプの映画ではないんですが、すごく良い脚本なので、この作品が『お金が集まらなくて作れませんでした』ではもったいないと思いました。また、この作品が醸し出している2000年代初頭の日本映画の雰囲気を身をもって経験した自分だからこそできる作品づくりがきっとあると思いました。この2つの側面からプロデューサーとして入らせていただきたいと思いました」とその経緯を説明する。
玉田監督はシナリオハンティング(シナハン)のために長崎を訪れたが、オダギリはそこにも同行したという。玉田監督は「まだプロデューサーという形ではない段階で、主演でオファーをさせていただき、出演していただけることになって、シナハンに行くことになったんですが『オダギリさんも来るらしい』という話を聞いて『マジか!?』と思いました。僕にとって、オダギリジョーという俳優は、2000年代初頭に自分が見ていた面白い邦画にだいたい出ているような印象で、すごく特別な俳優でした。その人と主演と監督として一緒にやれるというだけで嬉しいんですが、まさかつくる過程まで一緒にやってくれると思ってもなかったので、特別な体験でした」と驚きと喜びを口にする。
オダギリが演じる治の妻・恵子を演じる松は、ドラマ「大豆田とわ子と三人の元夫」以来のオダギリとの共演について「嬉しかったです」とニッコリ。そして「オダギリさんとはほぼ同世代ですが、いろんな作品を経験されてきたオダギリさんが、手に取って、興味を持った台本ってどんなだろう?というのが、惹かれた理由でもあります」とオダギリの存在が出演の決め手になったと明かす。
一方、オダギリの妹で、髙石演じる優子の母である阿佐子を演じる満島は、オダギリとは初共演。満島は「いまの時代にこれを撮るの?すごいなって思いました。私が九州の出身なので、(作品から)匂い立つものや出てくる人たちのキャラクターが、親戚や近所のおじちゃんたちと重なるところがありました。田舎の若い恋愛って、こういう何とも言えない話をみんなしてたな…とか、いろんな情景が浮かんできました」としみじみと語り、自身の役柄についても「こういう役が私にも来るようになったか…と思いました」と感慨深げだった。
森山は、オダギリから「この役に説得力を持たせられる人は森山さんしかいない」と直々にオファーされたというが「率直にビックリしました」と述懐。「心してかかんなきゃという緊張感と、風のうわさでオダギリさんが毎晩、お酒をたしなまれて、出演者やスタッフとしっかりと“飲みにケーション”をされると聞いて、それが本当に怖くて…(苦笑)」と当初、感じていたという不安を明かす。実際、撮影期間中は合宿のように全員が同じホテルに宿泊し、そのロビーではオダギリが“ママ”となって、みんなが「スナックジョー」と呼ぶ親睦の場が毎晩、繰り広げられていたという。森山は「映画の現場は初めてで緊張していましたが、お芝居じゃない時間帯にそうやってほぐしていただいて感謝しかないです」と語った。
髙石はオーディションを経て優子役に決まったが「オーディションの段階で、オダギリさんと松さんが出ると聞いて『絶対に出たい』と思いました。でもオーディションで監督たちとお会いして、個人的に『あ、落ちたな…』と思っていたので、マネージャーさんから電話で(出演を)聞いた時はびっくりしました」と率直な思いを明かす。この日の登壇陣とは本作が初共演だったが、母親役を演じる満島と最初に撮影前に顔を合わせたそうで「とにかくお会いしたくて…(会って)緊張するかと思ったんですが、満島さんが放つオーラやパワーで包んでいただいて、緊張というよりも楽しい時間になりました。撮影でも、のびのびと自由に演じさせていただきました」と充実した表情で語った。
この日は、映画にちなんで登壇陣が「心に沁みたこと」を発表。光石は「長崎ロケでの撮影スタッフ」と書かれたフリップを掲げ、坂の多い長崎の街での撮影について「撮影を行なったおうちも車が通れないので歩いて登るしかないところで、スタッフは機材を手持ちで運んでいました。それを見て心に沁みました」と明かす。
玉田監督のフリップには「猫」の一文字。撮影が行われた街には猫が多くいたそうで、映画にも画面の中に自然と猫が入り込んでおり、街で暮らす猫たちが画面に映ることで「映画に長崎の街が染みこんでいくような感じがしました。猫がすごく良い芝居をしています」と嬉しそうにうなずいた。
高橋は「高校の同級生」と書かれたフリップを見せながら、映画の中で立山が友人たちと遊ぶシーンに言及し「僕自身が高校生の頃、同級生と仲良くなるためにしていたダーツやカラオケといった遊びをお芝居でするのが初めてでした。(劇中では)飲み会の場に、想いを寄せる女の子がいて、うまくいったり、いかなかったりというのがすごくもどかしくて…お芝居をする感情として心に沁みました。(完成した)映画を観ても、独特の雰囲気があって、そのころのことを思い出したりして、青春時代とリンクしました」と懐かしそうに語った。
「8歳の甥っ子 九州から東京へひとり旅」と書かれたフリップを見せたのは満島。先日、九州で暮らしている甥っ子がひとりで東京に遊びに来たというエピソードを明かしつつ「私も13歳でひとりで上京したんですけど優子も親元を離れて、置いて行かれますが、両親や家族がいない中で、少年時代や少女時代に経験することってすごい経験になるよな…と甥っ子の姿を改めて見て思って、心に沁みました」と明かした。
撮影期間中も満島と髙石は顔を合わせては交流を深めたとのこと。満島は「ちょうど、あかりちゃんの成長が見られる撮影の順番で、(阿佐子が優子を)預けに行くときと迎えに行くときで、顔つきが変わっていました」と嬉しそうに目を細めつつ「オダギリさんは同じでした(笑)」とオチをつけて会場は笑いに包まれる。
髙石は「長崎にて、満島さんと」と書かれたフリップを掲げ、撮影の休みの日に満島と長崎を巡った思い出を告白。「カステラを食べたり、釜めしをいただいたり、買い物に行って、満島さんがバッグを買ってくださったり…沁みる一日でした」と笑顔を見せた。
松が撮影期間中に心に沁みたこととして挙げたのは「月が赤かったこと」。「月が赤くて、大きくて、夕日も赤くて…でも、長崎に暮らしているひとからすれば、それは普通の景色で、私にとって特別だと思ったことが、そこで暮らして生きている人には普通の光景だってことが沁みます」と含蓄のあるコメントを口にする。
そんな「松さんの浴衣姿」が心に沁みたと明かすのは森山。先ほどの話にも出たホテルのロビーを「お風呂上がりの松さんが、浴衣を着られて、映画のワンシーンのような感じで颯爽と通られるんです。それを羨望のまなざしでみんなが見ていました」と語り、松は「なんか幻を見てますよ…」と恥ずかしそうに苦笑いを浮かべていた。
そして、トリを務めるオダギリのフリップには「心に沁みた!」という謎の言葉が書かれていたが、オダギリは「僕が心に沁みたなと思ったのは、満島さんの甥っ子の話でした」となぜか自身のエピソードではなく、共演陣の発表から拝借。そんなオダギリに髙石や他の共演陣からは「ズルい!」との非難の声が上がり、これにはオダギリも「こんなに引かれますかね…?そんなにヤバい?」と困惑していた。
締めの挨拶でも、キャストを代表してマイクを握ったオダギリは「この舞台挨拶で、みんなにこれだけ嫌われると思ってなかったです(笑)」と冗談を挟みつつ、「僕と作品は別物なので(笑)、作品はしっかり愛していただけたら」と呼びかけた。
玉田監督も「こんなに素晴らしい俳優の人たち――僕自身もいろんな映画やドラマで観てきた『いつか一緒に仕事をしたい』と思っていたみなさんに集まっていただき、そのみなさんの芝居に負けないようにと、ベストを尽くして作ったので、きっと面白い映画になってると思います!」と力強く語り、温かい拍手の中で舞台挨拶は幕を閉じた。
『夏の砂の上』
出演:オダギリジョー 髙石あかり 松たか子 森山直太朗 高橋文哉 篠原ゆき子 / 満島ひかり 斉藤陽一郎 浅井浩介 花瀬琴音 光石研
監督・脚本:玉田真也
原作:松田正隆(戯曲「夏の砂の上」)
音楽:原摩利彦
製作・プロデューサー:甲斐真樹
共同プロデューサー:オダギリジョー
製作:映画『夏の砂の上』製作委員会
製作幹事・制作プロダクション:スタイルジャム
配給:アスミック・エース
(C) 2025映画『夏の砂の上』製作委員会
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7月4日(金)全国公開
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