監督初来日「これは明日のあなたの話かもしれません」 映画『入国審査』ジャパンプレミアトークイベント

映画『入国審査』のアレハンドロ・ロハス監督とフアン・セバスチャン・バスケス監督が初来日し、7月3日にインスティトゥト・セルバンテス東京にてジャパンプレミアが開催された。

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(左から)アレハンドロ・ロハス監督、フアン・セバスチャン・バスケス監督

舞台はNYの空港、入国審査を待つ幸せなカップル。移住のビザも取得し、新天地で暮らす準備は万全だったはずが、説明もなく別室に連行され、密室での不可解な尋問が始まる。なぜ二人は止められたのか?審査官は何かを知っているのか?予想外の質問が次々と浴びせられる中、やがてある疑念が二人の間に沸き起こり―。

監督が故郷のベネズエラからスペインに移住した時の実体験からインスピレーションを受け、実力派俳優を迎えて制作。わずか17日間で撮影された低予算作品ながら、15か国の映画祭で20余りの賞を受賞し、世界中の映画祭を席巻。さらに米レビューサイトのロッテントマト(Rotten Tomatoes)でも「批評家100%、観客97%」(2025.4/30時点)の高評価を獲得している。

映画『入国審査』ジャパンプレミア オフィシャルレポート

――まず、本作誕生のきっかけについて伺いたいと思います。お二人とも、劇中のディエゴと同様にベネズエラ出身、バルセロナ在住とのことで、この物語はお二人の実体験が元になっていると伺っています。どんな体験だったのでしょうか?また、それを映画化しようと思ったきっかけは何でしょうか?

アレハンドロ・ロハス監督
この映画の物語には私たちと周りの人たちの経験が入っています。ベネズエラ出身なので、アメリカの入国管理では元々要注意の国として、ベネズエラの旅券(パスポート)だと素直に入国することが難しい現状がありました。それにより私自身入国管理局に対する反感や恐怖があります。誰も見ていないところで行われる“審査”で、実際何が起きているのかを語りたかったんです。

フアン・セバスチャン・バスケス監督
もう一つ、この物語のポイントは登場人物であるカップルの女性エレナの存在です。ヨーロッパの国の国籍である彼女は私たち南米の国出身の人がどんな苦労をしているのか知らない。例えば人種や宗教など色々な差別がある中で、自分の国籍でそもそも差別されるということを知ってもらいたかった。彼女のように経験がない人たちにも、もし自分が移民の立場だったらどうなるかを知ってもらいたいとも思いました。

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――ちなみに今回の入国審査はお二人ともいかがでしたか?

アレハンドロ・ロハス監督
今回(市民権を得ている)スペインのパスポートで入国しましたので、とてもスムーズでしたし空港は静かでした。ベネズエラのパスポートで来ていたらどうだったかわかりませんが(笑)。

フアン・セバスチャン・バスケス監督
静かな空港のどこかに、もしかしたらどこかの国の人が二次審査をうけていたかもしれませんね。

――お二人は20年来の友人と聞いております。脚本もお二人で書かれていますが、どのように共同作業をされましたか?またその際、体験部分とフィクション部分をどのように融合されたのでしょうか?

アレハンドロ・ロハス監督
自分たちや知人などの体験談を参考に主人公のカップルを色々な視点で描こうと思いました。脚本の構成については、あるカップルが入国審査の二次審査に連れていかれるということは最初から決めていて、二次審査の中で初めて明らかになる事実により二人の関係に影響がでてくるという流れを考えていきました。結末も最初から決まっていました。二人で行う脚本作業はまさに手が4つあるような感じ(笑)で共に進め、コロナ禍でもリモートで一緒に作業していました。そしてこの作品はセリフも重要なのでお互い声に出して読んで、リアルに聞こえるか、何かおかしいところはないか確認し合ったりしました。

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――主人公のエレナが「スペイン出身?」と聞かれて何度も「バルセロナ」と答える場面が印象的です。日本の観客には少し馴染みがないかもしれませんが、彼女のカタルーニャ出身者としてのアイデンティティについて、もう少し詳しく教えていただけますか?

フアン・セバスチャン・バスケス監督
スペインの中でも多様性があるのでそれを表現したかったのですが、エレナは自分がスペイン人であるというよりもカタルーニャ人であるという意識が強いので、出身をきかれ「(スペインではなく)バルセロナ」とつい答えてしまうのです。実際カタルーニャに住んでいるとそういうことを実感しますし、この映画では、彼女は実はスペイン人でいるのが嫌でカタルーニャ人だけでありたいのだけれど、一方のディエゴはスペイン人のパスポートが欲しいわけです。カップルのこういったコントラストが面白いのではないかと考えました。

――本作はほとんどが空港の限られた空間の中で展開します。緊張感を持続させる見事な演出が光っていました。密室劇を成立させるうえで、カメラワークなどどんな工夫をされたのでしょうか?

アレハンドロ・ロハス監督
本作は17日間で撮影しました。その中の11日間を尋問のシーンに費やしました。そしてほぼ順撮りで撮影しています。ですのでキャストも私たちスタッフも自然にストーリーの流れに入っていくことができました。そして撮影の数日前からカメラアングルを細かく考えて、どうやったら登場人物の気持ちが一番表現できるかなど工夫し、どのようにすれば観客も登場人物と同じように圧迫感や不安を感じてもらえるか、考えていきました。キャストも素晴らしかったですね。またリズムを崩さないことにも注力し、私たちの優秀な編集マンが時計と同じようにリズムを刻むようなイメージで、一定のリズムで編集をしてくれました。
またできるだけリアルに感じられるよう、撮影時カメラを動かさなかったので、カメラの存在を忘れるような編集を心がけました。それぞれの質問に次はどう答えるんだろうと常に不安を感じさせるような編集もよかったと思います。

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――キャスティングについてもお伺いしたいと思います。ディエゴ役のアルベルト・アンマンは、アルゼンチン生まれでスペイン育ち。エレナ役のブルーナ・クッシもカタルーニャ出身と伺っています。また、審査官役のローラ・ゴメスはアメリカ・ニュージャージーで生まれ、ドミニカ共和国で育った俳優です。役柄は俳優のバックグラウンドを重ねて、意図的にキャスティングされたのでしょうか?

フアン・セバスチャン・バスケス監督
この脚本は7年くらい前に執筆したのですが、その時点では俳優は決まっておらず、撮影するにあたってはまず演技力を重視しました。またこのキャラクターを理解してくれるかどうかもポイントでした。主要キャストの4人は昔から知っているかのように色々話し合ってくれて、それぞれの役柄を深く理解して演じてくれました。


このあと、観客からのQ&Aにうつり、観客席からは「とても面白かった」という感想とともに様々な質問が挙がった。

監督が実際に体験された尋問がセリフに反映されているかという質問には「すべて私たちが聞かれた質問でないけれど、実際に経験した質問が含まれています」(ロハス監督)、「入国審査の空間についても自分たちの記憶をもとに忠実に作り上げました」(バスケス監督)と答えると観客席からは驚きの声があがった。

またカップルを尋問する審査官の一人が南米系に見える女性で二人と同じように移民であるようなキャラクターにした理由については「重要なのは、ああいった社会に住んでいるとどういう風に変わるかということです。自分がその社会の一員として認められるため、元々の自分の出身地のたちにも厳しくする。本来一番シンパシーを感じてもらえるだろう人に一番厳しくされるということをよく目の当たりにします」(バスケス監督)と回答するなど、鋭い質問に感心しながら観客とのセッションを楽しんでいた。

最後に、アレハンドロ・ロハス監督は「今日はありがとうございました。これから劇場公開ですので、気に入ってくださったらぜひ周りに勧めてください。よろしくお願いします」と話し、フアン・セバスチャン・バスケス監督は「日本の皆さんにとっては、本作で描かれている内容はあまり馴染みがないと思うかもしれない。しかし世界の情勢やそれぞれの国の状況は変わっていきます。これから日本もどうなるかわかりませんし、これは明日のあなたの話かもしれません!」と語りかけ、その言葉に同意するように頷く観客の姿も見られた。

『入国審査』
出演:アルベルト・アンマン、ブルーナ・クッシ
監督・脚本:アレハンドロ・ロハス、フアン・セバスチャン・バスケス
2023年|スペイン|スペイン語、英語、カタルーニャ語|77分|ビスタ|カラー|5.1ch|原題 UPON ENTRY|日本語字幕 杉田洋子
後援:在日スペイン大使館、インスティトゥト・セルバンデス東京
配給:松竹
(C) 2022 ZABRISKIE FILMS SL, BASQUE FILM SERVICES SL, SYGNATIA SL, UPON ENTRY AIE
https://movies.shochiku.co.jp/uponentry/

8月1日(金)新宿ピカデリー、ヒューマントラストシネマ有楽町ほか全国公開

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