PFFが2019年に創設、映画の未来を拓き世界へ羽ばたこうとする、新しい才能に対して贈られる映画賞「大島渚賞」(※渚は、点が入る旧字体)。第7回目となる今回は、『ルノワール』の早川千絵監督が受賞し、3月23日に東京・丸ビルホールにて開催された授賞式に、早川監督、審査員長の黒沢清監督、大島家から大島新監督、PFF理事長の矢内廣が登壇した。

今年の大島渚賞の審査講評として、黒沢監督は「第1回目から坂本龍一さん、荒木啓子さん(PFFディレクター)と決めていたのは、探す過程で、大島監督の片鱗を探し出そうという努力をせずとも、本当に素晴らしい作品に出会ったら、それも含めて大島渚的であると言えるのだということ。ただ、そう簡単には出会えなかったんですが、第7回目にして、ようやく圧倒的な作品と出会えたと僕は思っております」と称えた。

「鈴木唯さんが演じる主人公、フキのキャラクターに、最後にはもう目の前にいる大人たち、それから社会、全てを彼女が断罪し、時には罰を与え、ある時は許す。ほとんど神に近いかのような存在にまで、ひと夏のうちに最終的な成長をしている」と作品を評し、「家族、社会を客観的なまなざしで、最終的には非常に批判的な、少女のあり方は、大島渚監督の『少年』の主人公に似ているなという気がしました」と大島渚監督作品との共通点に言及。

続けて、「そういう意味では、子供が主人公の映画ですが、これほど卓越した眼差しで社会や人間を見通すような映画は近年の日本映画では本当に他になかったと思っています。『ルノワール』という作品、そして早川千絵監督に大島渚賞を受け取っていただけること、こちらとしても名誉に思っております。どうもおめでとうございました。そしてありがとうございました!」と賛辞を贈った。

大島新監督は『ルノワール』について、「本当に一言で言って、驚きの作品でありました。映画を見始めて、始まって5分で不穏な映画、ただならぬ作品という印象を持ちまして、その不穏さとただならぬさが最後まで続いていくというような作品で、本当に大変驚きの思いでおりました。主演の鈴木唯さんと、早川監督のオリジナル脚本は奇跡のような出会いではなかろうかと。大変胸を打たれました」と称賛。


黒沢監督が『ルノワール』を大島渚監督の作品『少年』に近いと評したことについては、「時代もテーマも違いますが、不穏でただならぬ作品だと思います。『少年』は50年以上も前の作品となりますが、今この2026年に『ルノワール』が大島渚賞を受賞されたことをとても嬉しく思っております。早川監督には、ぜひこれからも世界を驚かせてほしいと思います」と称えて、受賞の記念品として、大島渚監督が愛用していたというモンブランのペンを贈呈した。

早川監督は、「2020年に大島渚賞が創設された時の言葉が今でも鮮烈に記憶に残っています。この賞をきっかけに、小田香さん(第1回受賞者)という素晴らしい映像作家を知ることが出来ました。この賞の意義を強く感じます。その翌年の第2回は、なんと、該当者なし。とてもしびれる決断を下したこの賞は、さすが大島渚監督の名前を冠した賞だと感銘を受けたのを覚えています。一方で、私がつくる映画は、この賞とは縁遠いだろうと何となく感じており、今回、この受賞のお知らせを受けた時は、とても驚いたというのが、正直な感想でした」と語った。

さらに、「私は、子どもの頃から映画をつくりたいという強い気持ちがありましたが、なかなか一歩を踏み出すことができず、監督としては遅いスタートでした。長編映画を2本撮ることができて、ようやく映画をつくることができる環境を得て、そして、ともに映画をつくる素晴らしい仲間と出会うことができて、とても幸せに思っています。しかしながら、これは一歩間違えると、この状況にあぐらをかいてハングリー精神を失って守りに入ってしまう、余計なことを恐れ、失敗することを怖がったり。そういうことが起こりうる状況にあるとも感じています。そんな中で、この賞をいただけるということは、選んでくださった黒沢監督と荒木さんに、「慢心することなく、全力で映画をつくり続けるために邁進せよ」とカツを入れていただいた。そういう風に受け止めています。大島渚監督の戦う精神、既存の枠に収まらない自由な精神、そういったものを少しでも引き継いでいけたらと思っています」と受賞を受けての決意を述べた。

また、大島渚監督作品については、「大島監督の作品を観た映画経験で、私にとって忘れられない1本が、中学生くらいの頃、地上波のテレビで見た『戦場のメリークリスマス』です。映画の強烈な引力につかまってしまった、という感覚で、目が離せない、とずっと見続けてしまったのです。そして、最後のシーンだったと思いますが、不意に胸を突かれて涙がボロボロ流れたという経験をしました。すべて理解できなくても、不意に人の心を揺さぶり、掴み、感動させる。映画はそういう不思議な力を持つものなんだということを初めて知る強烈な体験でした。『ルノワール』を撮ろうと思ったときに、私が『戦場のメリークリスマス』を当時観たときのような感覚、そういう一瞬が一つでも訪れるような映画にしたいなと思って、ずっとつくっていました。ですので、今回の『ルノワール』という作品で大島渚賞をいただけるということは本当に光栄で嬉しく思っています」と受賞の喜びを語った。

最後に、「2014年に『ナイアガラ』という作品を見つけてくれたPFFの皆さんと、こうした形で再会できたことをとても嬉しく思っています。最後に、『ルノワール』のプロデューサーの水野詠子さんと、ジェイソン・グレイさんに、この場を借りて感謝の気持ちを伝えたいです。私がつくりたい映画を常に信じ、常に励まし、伴走し続けてくれた2人のおかげで、私は今、この場所に立っていっていると思います」と謝辞を述べ、「これからも自分が本当に心から撮りたいと思う映画を、観たいという映画を、一つ一魂を込めて撮っていきたいと思っています。本当にありがとうございました」と締めくくった。


