【レポート】ヴェネチア国際映画祭金獅子賞『あのこと』主演アナマリア・ヴァルトロメイ&オードレイ・ディヴァン監督来日!

あのこと

本年度ノーベル文学賞を受賞した仏作家 アニー・エルノーが若き日の実体験をもとに描いた小説「事件」を映画化した『あのこと』(全国順次公開中)のオードレイ・ディヴァン監督と、主演のアナマリア・ヴァルトロメイが来日し、フランス映画祭2022 横浜でのQ&A、そして初日舞台挨拶に揃って登壇した。

フランス映画祭2022横浜『あのこと』上映後Q&A 概要

日程:12月2日(金)
登壇者(敬称略):アナマリア・ヴァルトロメイ、オードレイ・ディヴァン監督
場所:kino cinemaみなとみらい

『あのこと』公開記念来日舞台挨拶 概要

日程:12月2日(金)
登壇者(敬称略):アナマリア・ヴァルトロメイ、オードレイ・ディヴァン監督
場所:Bunkamuraル・シネマ

『パラサイト 半地下の家族』でアカデミー賞(R)4冠に輝いたポン・ジュノ監督が審査員長を務めた2021年ヴェネチア国際映画祭での最高賞受賞を皮切りに、世界の映画賞を席巻した本作。舞台は1960年代、法律で中絶が禁止され、処罰されていたフランス。望まぬ妊娠をした大学生のアンヌが、自らが願う未来をつかむために、たった一人で戦う12週間が描かれる。

この作品の特別なところは、本作と対峙した観客が、「観た」ではなく「体験した」と、それもアンヌと身も心も一体化して、「恐怖と怒りと情熱」を体感したと語ること。全編アンヌの目線で描かれる本作は、観ている者の主観がバグるほどの没入感を臨場感をもたらす。タイムリミットが迫る中、闇をくぐり抜け、アンヌがたどり着く光とは─。

まずオードレイ監督とアナマリアはkino cinemaみなとみらいにて、「フランス映画祭2022 横浜」上映後のQ&Aに参加。多くの観客からの質問が挙がり、作品に対する注目度と完成度の高さをうかがわせた。

自身も中絶経験者だというオードレイ監督は、「いまだに女性の中絶が違法である国は沢山あるし、合法であっても中絶を批判する国も多い。合法化されている現在のフランスでも中絶に批判的な意見を持っている人が多いことを痛感します」と本作制作の上でも厳しい現実を目の当たりにしたという。

アンヌの感情などを説明的に語らない主観的演出スタイルを選択した理由については、「登場人物を通してその時代が見える作りを意図しました。1960年代のストーリーですが、アンヌを通して物語に普遍性を与えたいと思いました」と狙いを説明した。

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体当たりで主人公のアンヌを演じたアナマリアは、「脚本を読んだときにアンヌという女性の描き方に感動しました。彼女の知的な欲求、官能的な欲望、そして選択を前にして揺れ動く心理状態が見事に描かれていると思いました。そこに惚れ込み、役を引き受けました」と明かす。アンヌを演じる上では、「わずかな笑顔が効果的に見えるよう、あえて笑顔を封印して演じました」と役作りを回想した。

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アンヌの母を演じたのは『沈黙の女/ロウフィールド館の惨劇』(1995)でヴェネチア国際映画祭女優賞を獲得した大女優サンドリーヌ・ボネールアナマリアは、「彼女は経験豊富なベテラン女優で、要求するレベルは高いけれどとても優しい。撮影中は沢山の学びがあり、今回の共演は私にとってはマスタークラスのようでした」と感激。

一方、オードレイ監督はサンドリーヌとの撮影を振り返り、「彼女は常に真実を追求するタイプの女優。アンヌの顔を平手打ちするシーンではもの凄い音がしました。リハーサルなしの本番一発。本気でひっぱたいていたので、撮っているこちらがビックリしました」とベテラン女優の熱演に目を丸くしていた。

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続いて東京の渋谷に移動して、Bunkamuraル・シネマで公開記念来日舞台挨拶を実施。夜遅くの舞台挨拶にも関わらず、多くの観客が詰めかけた。

世界各国の映画祭での高評価に、オードレイ監督は「この映画を作るための資金集めには大変苦労しましたが、各国の映画祭で賞を受賞したことでフランス以外でも映画を上映することができて、このように私たちも様々な国の観客の感想を聞くことができました」と嬉しそう。

アンヌの主観を思わせるようなカメラワークや演出について、「こだわったのは、アンヌが生きている時間を追うような形で時間の流れを見せること。観客も一緒にアンヌの経験していることを実感できるような形を目指しました。皆さんがどのように感じられたのか…。感想を聞きたいです」といい、客席からは拍手喝采。オードレイ監督は安心した表情を見せていた。

堕胎シーンなどショッキングな場面も演じたアナマリアは、「たとえ厳しい場面でも温かいチームに囲まれ、私のことを尊重してくれるスタッフばかりでした。オードレイ監督もパートナーであり味方で、いまだかつてなく自由にありのままに演じることができました」と手応えを語った。

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堕胎シーンの撮影では、「いざセットに上がって見ると戸惑ってしまいました。するとオードレイ監督は鏡のように私と向き合ってくれて、必要な動作を見せてくれました。私はそれを真似ることで監督に導かれるような感覚で演じ切ることができました」と感謝。するとオードレイ監督は、「私は撮影をしながら涙を流してしまい、録音技師から『うるさいなあ。離れてくれよ』などと注意されました」とジョークを交えながら感極まった撮影を回想した。

女優としての今後の予定を聞かれたアナマリアは、「国際的なプロジェクトも予定されています」と飛躍を感じさせながら、「興味があるのはABBAです!名前は思い出せないけれど、私のように髪の毛が茶色で私と同じように青い目をしている方がいますよね。是非演じてみたいです」とニッコリ。

そしてオードレイ監督が、「レア・セドゥ主演で『エマニエル夫人』をリメイクする予定です」と今後の予定を明かすと、すかさずアナマリアは「ABBA映画もお願い!」とおねだりして、オードレイ監督も「あなたがそう言うならば、その命令に従わないとね!」とノリよく答えて日本の観客を喜ばせていた。

最後に主演のアナマリアは、「映画は答えを出すものではなく、質問を投げかけるもの。この映画が皆さんにどのような質問を投げかけることができるのか、興味津々です」と大ヒット祈願。オードレイ監督も「原作者のアニー・エルノーが歩んだ道は自由獲得への道です。皆さんもこの映画を通してどのように自由を獲得していくのかを考えてほしいです」とアピールした。

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ストーリー
1960年代、中絶が違法だったフランス。大学生のアンヌは予期せぬ妊娠をするが、学位と未来のために今は産めない。選択肢は1つ―。

アンヌの毎日は輝いていた。貧しい労働者階級に生まれたが、飛びぬけた知性と努力で大学に進学し、未来を約束する学位にも手が届こうとしていた。ところが、大切な試験を前に妊娠が発覚し、狼狽する。中絶は違法の60年代フランスで、アンヌはあらゆる解決策に挑むのだが──。

作品タイトル:『あのこと』
出演:アナマリア・ヴァルトロメイ『ヴィオレッタ』
サンドリーヌ・ボネール『仕立て屋の恋』
監督:オードレイ・ディヴァン
原作:アニー・エルノー「事件」
2021/フランス映画/カラー/ビスタ/5.1ch デジタル/100分/翻訳:丸山垂穂
配給:ギャガ

公式サイト:https://gaga.ne.jp/anokoto/
公式Twitter:@anokoto_movie
コピーライト:(C) 2021 RECTANGLE PRODUCTIONS – FRANCE 3 CINÉMA – WILD BUNCH – SRAB FILM

全国順次公開中

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