
是枝裕和監督作『万引き家族』とともにカンヌ国際映画祭を震わせ、コンペティション部門〈審査員賞〉〈エキュメニカル審査員賞〉を受賞、本年度ゴールデン・グローブ賞ならびにアカデミー賞(R)〈外国語映画賞〉にノミネートされたナディーン・ラバキー監督最新作『存在のない子供たち』がシネスイッチ銀座ほかにて全国公開中だ。
本作は、「両親を訴える―僕を産んだ罪で」両親を告訴するという衝撃的なオープニングから心を鷲づかみ、物語をひと息に過去へと遡らせ、その理由と経緯をつぶさに描き出した世界を揺るがした衝撃作。この度、特別映像が公開となった。
本作が多くの人々の琴線に触れ、大きな反響を呼んでいる理由として、ストリートキャスティングによって演技未経験の登場人物と似た境遇のキャストの起用により、現実とフィクションの狭間で生み出された言葉と表情を捉え、しかと映し出す演出の強さによるところが大きい。
同名の役名で主人公のゼインを演じたゼイン・アル=ラフィーアは、シリアからの難民であったが、本作の撮影終了後、彼の一家はノルウェーへの移住が認められ、今は彼の地の学校に通い新生活を送っている。「色々とたくさんの事が変わったよ。前みたいに、荒んだ人間ではなくなり、穏やかな人間になった。前は、誰彼構わず、喧嘩をふっかけていた」とゼインは語る。
読み書きができなかったゼインは学校へ通い成績優秀だという。状況が変わったのはゼインだけではない。ゼインの大切な妹サハル役を演じたシドラ・イザームもベイルートの学校に入り、クラスで1番の優等生に。映画館に一度も行った事がなかった少女はナディーン・ラバキー監督と過ごした時間と撮影を経て、いまの夢は映画監督になることだという。

ヨナス役の赤ちゃんは母とケニアに戻り、幼稚園に通い始めた。そして、先日来日したラバキー監督は新プロジェクトとして、ゼインを中心としたドキュメンタリーを制作中とのこと。またラバキーはキャスト支援のため、「カペナウム基金」を設立し映画製作後も支援を続けている。
原題の『カペナウム』とは「混沌・修羅場」という以外に「奇跡」という意味も併せ持つと来日時にラバキーは明かしている。


ストーリー
わずか12歳で、裁判を起こしたゼイン。訴えた相手は、自分の両親だ。裁判長から、「何の罪で?」と聞かれたゼインは、まっすぐ前を見つめて「僕を産んだ罪」と答えた。中東の貧民窟に生まれたゼインは、両親が出生届を出さなかったために、自分の誕生日も知らないし、法的には社会に存在すらしていない。学校へ通うこともなく、兄妹たちと路上で物を売るなど、朝から晩まで両親に働かされている。
唯一の支えだった大切な妹が11歳で強制結婚させられ、怒りと悲しみから家を飛び出したゼインを待っていたのは、大人たちが作ったさらに過酷な“現実”だった――。
『存在のない子供たち』
出演:ゼイン・アル・ハッジ、ヨルダノス・シフェラウ、ボルワティフ・トレジャー・バンコレ
監督・脚本・出演:ナディーン・ラバキー 『キャラメル』
2018/レバノン、フランス/カラー/アラビア語/125分/シネマスコープ/5.1ch/PG12
字幕翻訳:高部義之
配給:キノフィルムズ/木下グループ
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7/20(土)、シネスイッチ銀座、ヒューマントラストシネマ渋谷、新宿武蔵野館ほか全国公開