ノーベル平和賞受賞:婦人科医デニ・ムクウェゲ氏の命がけの治療を追ったドキュメンタリー『女を修理する男』DVD発売中

女を修理する男今年のノーベル平和賞を受賞した婦人科医デニ・ムクウェゲ氏を追ったドキュメンタリー映画『女を修理する男』のDVDが発売中だ。

本作は、暗殺未遂にあいながらも、医療、心理的、そして司法的な手段を通して、婦人科医のデニ・ムクウェゲ医師が性暴力の生存者を献身的に治療する姿を映したドキュメンタリー作。生存者の衝撃的な証言、加害者の不処罰の問題、希望に向かって活動する女性団体、そしてこの悲劇の背景にある「紛争鉱物」の実態も描かれている。

コンゴ戦争が勃発してから20年が経つ。その間、「紛争鉱物」の実態に関する認知は高まり、国際社会はその予防策に取り組んできた。しかしコンゴ東部の状況は改善されないまま、この地域に住む人々の苦しみは続き、大勢の女性、少女、そして男性が性暴力の被害にあっている。紛争鉱物、グローバル戦争経済と組織的な性暴力は相互関係にあるが、その事実はほとんど知られていい。

ムクウェゲ医師は1998年、コンゴ東部のブカブにてパンジー病院を設立し、これまで4万人以上のレイプ被害者を治療し、精神的ケアを施し続けてきた。それ以外に、国連本部をはじめ世界各地でレイプ被害に関する演説を行い、女性の人権尊重を訴えてきた。その活動が国際社会で評価され、これまで国連人権賞(2008年)、ヒラリー・クリントン賞(2014年)、サハロフ賞(2014年)などを受賞。ノーベル平和賞受賞者の有力候補にも数回挙がっており、2016年5月のタイム誌で「最も影響力のある100人」にも選ばれている。

ムクウェゲ医師の受賞歴

国連人権賞 (2008 年)
レジオン・ドヌール勲章 ( 2009 年)
ライト・ライブリフッド賞 (2013 年)
ヒラリー・クリントン賞 (2014 年)
サハロフ賞 (2014 年)
ソウル平和賞 ( 2016 年)他多数

作品タイトル:『女を修理する男』
監督:ティエリー・ミシェル
作家:コレット・ブラックマン、ティエリー・ミシェル
脚本:ティエリー・ミシェル、コレット・ブラックマン、クリスティーン・ピロ
2015年/ベルギー/112分
字幕:八角幸雄/監修:米川正子
協力:コンゴの性暴力と紛争を考える会、日本映像翻訳アカデミー、クラウドファンディングの支援者の皆様
配給:ユナイテッドピープル

公式サイト:https://www.cinemo.info/movie_detail.html?ck=58

コンゴの性暴力と紛争を考える会

この度、ドキュメンタリー映画『女を修理する男』(原題:The Man Who Mends Women)に関心を寄せていただき感謝申し上げます。本映画は、2016年6月から 2017年2月まで全国 29ヵ所で公開され、約3,000人が鑑賞しました。
「世界のレイプ中心地」とも描写されるコンゴ民主共和国(以下、コンゴ)東部。本作品には、1998年、現地に病院を設立して以降、医療、心理の両面で4万人以上の性暴力サバイバーの女性・少女を治療してきたコンゴ人婦人科医デニ・ムクウェゲ医師の活動が描かれています。サバイバーの衝撃的な証言、加害者の不処罰、希望に向かって活動する女性団体、そしてこの悲劇の背景にあるジェンダーに基づく偏見や差別のみならず、「紛争鉱物」(当該鉱物の採掘・流通にともなう利益が政府、あるいは武装勢力によって紛争資金に利用されている鉱物)の実態も描いています。
同氏は、コンゴ東部において鉱物の略奪を目的に軍や武装勢力が、現地の女性・少女に対して組織的な性暴力を犯してきた事実について訴え、女性・少女の人権尊重を求めてきた最初の人物です。その活動が評価され、ノーベル平和賞受賞者の有力候補にも数回挙がっています。

コンゴで起きている紛争は、1994年に隣国ルワンダで虐殺が起きた後、その首謀者がコンゴ東部に越境したことに端を発します。1996年には、ルワンダ虐殺の首謀者の掃討、コンゴのモブツ独裁政権の打倒などの理由から、ルワンダなどが支える反政府勢力がコンゴ東部に介入し、1997年に政権を奪取しました(第1次コンゴ紛争)。反政府勢力の報道官だったローラン・D・カビラ氏は、自身の大統領就任を宣言しました。1998年に、再びルワンダなどの近隣国がコンゴ東部に介入して第2次コンゴ紛争が発生しました。2001年には L.カビラ大統領が暗殺され、彼の息子のジョセフ・カビラが大統領に就任。2003年に和平合意が結ばれたものの、コンゴ東部では複数の武装勢力による人権侵害が継続し、その間、累計で約600万人という、第二次世界大戦後、世界最悪の犠牲者を生んでいます。
こうした紛争下における性暴力は、社会の混乱の中で個人が犯す性犯罪であると同時に、紛争手段、敵を恐怖に陥れ、支配下に置くための武器として意図的かつ組織的におこなわれることもあります。性暴力は、AK47のような武器と異なり、購入したり、維持管理のための労力を必要としないため、費用がかからず、多くの人々に精神的・身体的なダメージを与えることができます。 豊富な鉱物資源を有するコンゴ東部では、国内外の武装勢力や軍が資源産出地域および流通経路を支配する手段として、性暴力を利用しています。その目的は、第一に、鉱山の周辺地域の住民に恐怖心を植え付け、弱体化させることです。結果として、住民は不正義に立ち向かう気力を失い、地元の農業や商業も破綻されてしまいます。 第二に、女性の性器に木の枝、棒、びんなどを挿入して生殖機能を破壊し、長期的に現地の人口減少につなげることです。
コンゴ東部の紛争の長期化は、グローバル経済を通じて日本の私たちの暮らしともつながっています。特に紛争資金源として利用されている4鉱物(スズ、タングステン、タンタル、金)は、携帯電話やパソコンなどの電子機器から自動車や航空機にいたるまでの幅広い あらゆる工業製品に使用されています。2010年以降は欧米先進国で紛争鉱物取引規制が広がり始めていますが、まだ十分な効果はみられません。本作品を通して、紛争下の女性・少女に対する性暴力と紛争鉱物、そしてグローバル経済の関係への理解が深まることを願っています。

最後に、日本語DVDの作成にあたり、映画製作会社(ベルギー)、ユナイテッドピープル、クラウドファンディングの支援者と日本映像翻訳アカデミーに感謝の意を申し上げます。

※本会の活動目的は、本作品の上映やコンゴの性暴力や紛争などに関する研究を通して、本問題に関する認識を広め、その防止策について考えることにあります。

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