【レポート】映画史に燦然と輝く“山”映画の最高峰『山の焚火』深田晃司監督×横浜聡子監督リバイバル上映トークイベント

山の焚火

フレディ・M・ムーラー監督の特集上映「マウンテン・トリロジー」が2月22日(土)よりユーロスペースほか全国順次公開中。

ダニエル・シュミットやアラン・タネールらと並び、1960年代後半に起こったスイス映画の新しい潮流「ヌーヴォー・シネマ・スイス」の旗手として知られる、フレディ・M・ムーラー。代表作である『山の焚火』は、ロカルノ国際映画祭で金豹賞(グランプリ)を獲得し、世界にムーラーの名を轟かせた。

日本では86年にシネヴィヴァン六本木で劇場公開されて以来のリバイバルだが、深田晃司監督も横浜聡子監督もともに約20年前に本作と偶然出会い、「すごいものを観た」と衝撃を受けたという。両監督は今回の特集上映で改めてスクリーンで『山の焚火』を見直してトークに臨んだ。

本作は、広大なアルプスの山腹、人々から隔絶された地で、ほぼ自給自足の生活を送る4人家族の物語。しかし、「家族の話に特有のベタベタした感じがない。厳しい視線で捉えている」と深田監督は指摘。大好きだというエリック・ロメール監督の言葉を引用し、「ロメールは評論のなかで<偶然という神話>という言葉を使っている。映画は、偶然があるからこそ神話的に見えるのだと。偶然というのは、私たちにコントロールできない何かなんですよね。それは自然現象かもしれないし、ときに信仰になるかもしれないし、人とばったり出会うことかもしれない。『山の焚火』には偶然の出会いというのが一切ない。なにしろ家族しか出てこないので。ややもすると<他者性>のない物語になってしまいそうな設定ですが、そうはなっていない。それは、やはり、そもそも家族そのものが、究極の偶然の出会いであるという、家族に対する厳しい認識があるからなのではないか。しかも、偶然だけどまるで必然のような顔をしてそこにあるからこそ、家族というのは難しいし、ある種、呪いのようなものなんだ、という感覚が全編を通して感じられるので、襟を正して観たくなる」と分析した。

また横浜監督が「全てが等しく、淡泊に過ぎていく。美しい山の景色も、いかにもきれいでしょう、と撮るのではなく、動物や人を撮るようにぱっと撮って挿入されている。クライマックスを作らない」と指摘すると、深田監督は「私たちの人生って映画みたいに起承転結があるわけでもなく、わあ!っていう感情の昂ぶる瞬間というのはあるんだけど、でもそこでは終われないんですよね。その後にも、だらだらと人生は続いていってしまう。その感じがこの映画には残っているから、てしまう。その感じがこの映画には残っているから、神話的なんだけれど、ものすごく現実的でもあるんですよね」と述べた。

ロケーションの素晴らしさ、舞台となった家の間取りなど、作り手ならではの視点で本作の魅力を語り合うなかで、役者の演技について、横浜監督が「主演の男の子は、初めて見たときには素人かなと思ったんですけど、調べたところ、芝居経験のある子だそうです。そりゃそうだよなと思ったけれど、でも素晴らしい演技ですよね。でもプロの役者とかではなくて、今は冒険家として活動中とか(笑)」と明かす場面も。横浜監督は「この映画を見ると、物語とは何かと考えさせられる。物語は、観た人が作っていくものであるべきなんだろうなと、非常に強く思った。ディテールが用意周到に描かれていて台詞ではなく画で視覚的に伝わってくる。父親がうなだれている一瞬の後ろ姿で彼の逡巡している状況がぱっとわかる」と話すと、深田監督もムーラーの演出については「映画監督としては唸るしかない」と語った。

ストーリー
広大なアルプスの山腹。人々から隔絶された地で、ほぼ自給自足の生活を送る4人家族。 10代半ばの聾啞の弟は、その不自由さゆえに時に苛立つこともあるが、姉と両親の愛情を一身に受け健やかに育つ。ある日、草刈り機が故障したことに腹を立てた弟は、それを投げ捨て、父の怒りを買う。家を飛び出し山小屋に隠れ、一人で生活をする弟。そこに食料などを届ける姉。二人は山頂で焚火を囲み楽しい時間を過ごすが、やがて姉の妊娠が発覚し…。1985年 ロカルノ国際映画祭金豹賞およびエキュメニカル賞受賞。

作品タイトル:『山の焚火 デジタルリマスター版』
出演:トーマス・ノック、ヨハンナ・リーア、ロルフ・イリック、ドロテア・モリッツ、イェルク・オーダーマット、ティッリ・ブライデンバッハ
監督・脚本:フレディ・M・ムーラー
撮影:ピオ・コラーディ
録音:フロリアン・アイデンベンツ
編集:ヘレーナ・ゲルバー
スイス/1985/スイス・ドイツ語/カラー/117分
配給:ノーム

公式サイト:www.gnome15.com/mountain3/

ユーロスペースにて公開中!ほか全国順次ロードショー

 


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