【レポート】条件は「横浜で撮ること」のみ!『誰かの花』奥田裕介監督が骨太の作品を撮った理由とは?

誰かの花

ミニシアター、映画好きのためのオンライン・コミュニティ「ミニシアタークラブ」対談で、ゲストとして登場した『誰かの花』(1月29日(土)より全国公開)の奥田裕介監督が製作経緯を語った。

第34回東京国際映画祭 アジアの未来部門にてアジアの新人監督10作品に選出された本作には、カトウシンスケ(『ケンとカズ』小路紘史監督)をはじめ、吉行和子(『東京家族』山田洋次監督)、高橋長英(『それでもボクはやってない』周防正行監督)の他、和田光沙、テイ龍進、篠原篤など実力派俳優、若手俳優・村上穂乃佳、横浜に縁の深い大石吾朗、渡辺梓、寉岡萌希、堀春菜、笠松七海らがジャック&ベティ30周年映画に集結した。本格的な映画出演がはじめての子役・太田琉星は素晴らしい演技力をみせている。

本作が長編2作目となる奥田裕介監督は、前作『世界を変えなかった不確かな罪』(2017年)はコアな映画ファンを中心に高い評価を受けている。横浜出身の監督ならではの視点で、そこに住まう人と心を真摯に捉え丁寧に描いた物語となっている。

ミニシアタークラブ対談 概要

奥田裕介監督×北條誠人(ユーロスペース支配人)
場所:ユーロスペース事務所

※対談動画は、ミニシアタークラブに入会後、閲覧可能です。
https://basic.motion-gallery.net/community/minitheater/

【対談レポート】

―ミニシアタークラブ「映画の世界に入るきっかけはなんだったんでしょう?」

奥田:高校まではバスケに熱中してました。ある時、父親の地元へ帰るときに電車の中で読むように、パッと買ったのが、飯塚健監督が書いた自叙伝のような映画制作について書かれた本でした。読みやすくて一気に読んで、これだ!と思ったのがきっかけです。

北條:いきなり?

奥田:はい(笑)。そこから進路を普通の大学から、映画の学校に切り替えていろいろな映画学校を調べました。

北條:日本映画学校(現・日本映画大学)に入られたんですね

奥田:そうです。その後、飯塚監督に会えないか、出版社に連絡したり、映画祭のお手伝いをした時にツテがないか探したりしてました。その後、お会いできて飯塚監督の現場をお手伝いしたりすることになるんですが、お会いした時に、飯塚監督に「監督の本で人生が変わりました!」とお伝えさせていただきました。

北條:やっと念願が叶った瞬間ですね。

奥田:監督は飲みの席で「奥田は、俺をストーカーしやがって(笑)」と言ってましたけど(笑)

北條:一冊の本ですごいですね。それまでバスケ一筋だったのに

奥田:考えてみたら、小さい頃から母親によくジャック&ベティに連れられて行ってました。映画を選ぶのは母親なのでイランの渋い映画などをよく観ていました。母親は子供だから飽きるかなと思ったらしいんですが、観終わって劇場を出た後に、子供なりに映画の感想を言ってたみたいです。それからお互い見終わった映画の感想言い合うのが恒例で、それが自分の映画の原体験としてあると思います。映画を見た後に会話やコミュニケーションが生まれる映画を撮りたかったんだろうなと。

―ミニシアタークラブ「本作の制作経緯をお聞かせください。」

奥田:デビュー作でご一緒したプロデューサーが、ジャック&ベティの30周年記念企画を進めていて、お声がけいただきました。自分の過去作も知ってもらってますし、横浜育ちというのもあって。

ミニシアタークラブ:映画の内容、方向性の決定のプロセスは?

奥田:製作委員会からの条件は「横浜で撮る」というだけでした。周年だからといってお祭り的なものや町おこし的な作品を作るつもりもなく自分にオファーが来たので作風も理解いただいてるだろうなと思ってました。撮りたいものを撮ってください、ということでしたのでお受けしました。それこそ小学生の時から通っていたジャックさんで上映していて欲しいような作品を撮ろうと思いました。

ミニシアタークラブ:北條さんは初めに完成した作品をご覧になった時の感想はいかがでしたか?

北條:初号で見た時は、なんの情報もなくて、ジャックさんの30周年ということだけでしたので、おそらく横浜の風景が見えて、監督と同年代の出演者が身の回りの話をされるのかな、、と思ってたんですが、見始めて、まず出演者の世代が幅広くて、まずそこで「おお!」となって、途中のあるシーンから主演のカトウシンスケさんが映画をグイグイ引っ張っていったのが印象的でした。あと、事件の原因というものが見る人によって解釈が全然変わってくるのがこの『誰かの花』という作品の面白さの一つですね。
さらに、印象に残ったのは、「自助グループ、被害者の会のシーン」ですかね。大切なエピソードだと思ってまして。あそこにカトウシンスケさん演じる孝秋が入っていくことによって、幅を広げていく。初号で見た時と、改めて東京国際映画祭で見た時と、自分の中で解釈が変わっていてそれも面白かったですね。

奥田:そうですね。本当に見る人によって解釈が様々で、いろんな考えをおしゃってくださってすごく嬉しいです。

北條:被害者の会のシーンで、起用されたのは俳優?そうでない方でしょうか?

奥田:様々ですね。俳優の方、舞台俳優から演技経験のない方などわざと色々な方に出演していただいてます。あのシーンだけ、リハーサルではなくワークショップをやりました。そうゆう被害者の方の集まりのこと、事件、交通事故などの背景やその後の裁判の流れなどを丸1日かけて共有して、最後の最後に設定だけお渡しした、という感じです。撮影本番では、2台のカメラを回しっぱなしで私の方からNGをかけることもしませんでした。中には感情がこもって喋れなくなってしまう方や逆に喋りすぎたり泣き出す方もいらして。ですが手応えのあるシーンが撮影できたと思います。

北條:あとは、登場する少年の表情。不気味ですごかったですね。

―ミニシアタークラブ「脚本作りをするときのポイントを教えてください。」

奥田:今回の企画は元々自分の中にあったんですが、自分の中の違和感を特に大切にしたいと思いました。ワイドショーなどのニュースで、一方的に「あの人が犯人だ!」とか「あいつが悪い」などと切り取られる中でやっぱり自分は、その背景に目を向けたいなと常に思ってます。それと私自身、認知症になった叔父がいるのと、交通事故にまつわることもきっかけとしてありました。

―ミニシアタークラブ「奥田監督が映画で表現したい主なテーマは?」

奥田:ここ数年で自分がやりたいことがやっと明確になってきました。自分の中での一貫したテーマは、善意から生まれた悲劇、その先の救いがテーマ。<不確かな罪>と自分の中で定義しているんですが。
みんな抱えている言葉にできない感情の置き場所を映画で表現できたらいいなと。
映画館で、映画を見てもらった後に、普段の出来事とかニュースの見方とかがちょっと変わってたらさらに嬉しいですし、そこに想像力を持たせたい。そういった映画を目指したいと思ってます。

―北條「最後に一言お願いいたします。」

奥田:普段の生活ってみんな本当に忙しい毎日を過ごしていると思うんです。常にマルチタスクで。スマホ、TV、SNSに常時囲まれていて。だから、映画館の椅子に座ってスマホの電源を切った瞬間すごくストレスがなくなって、それは映画館で映画を見るという本当にシンプルなシングルタスクになるので、人にはそうゆう時間が必要なんじゃないかと本当に思います。ぜひ映画館で映画を観ることをお勧めします。そして。この『誰かの花』は目線、視点がキーになってまして、そういったこと一つでいろんな考え方が広がる作品だと思ってます。

誰かの花

誰かの想いと、悲劇と救い
ストーリー
鉄工所で働く孝秋(カトウシンスケ)は、薄れゆく記憶の中で徘徊する父・忠義(高橋長英)とそんな父に振り回される母・マチ(吉行和子)のことが気がかりで、実家の団地を訪れる。しかし忠義は、数年前に死んだ孝秋の兄と区別がつかないのか、彼を見てもただぼんやりと頷くだけであった。
強風吹き荒れるある日、事故が起こる。団地のベランダから落ちた植木鉢が住民に直撃し、救急車やパトカーが駆けつける騒動となったのだ。父の安否を心配して慌てた孝秋であったが、忠義は何事もなかったかのように自宅にいた。だがベランダの窓は開き、忠義の手袋には土が…。一転して父への疑いを募らせていく孝秋。
「誰かの花」をめぐり繰り広げられる偽りと真実の数々。それらが亡き兄の記憶と交差した時、孝秋が見つけたひとつの〈答え〉とは。

作品タイトル:『誰かの花』
出演:カトウシンスケ 吉行和子 高橋長英 和田光沙 村上穂乃佳 篠原篤 太田琉星
大石吾朗 テイ龍進 渡辺梓 加藤満 寉岡萌希 富岡英里子 堀春菜 笠松七海
脚本・監督:奥田裕介
撮影:野口高遠|照明:高橋清隆|録音:高島良太|衣装:大友良介|ヘアメイク:ayadonald 大久保里奈
制作:佐直輝尚|助監督:松村慎也 小林尚希 高野悟志|音楽:伴正人|整音:東遼太郎
エクゼクティブプロデューサー:大石暢 加藤敦史 村岡高幸 梶原俊幸|プロデューサー:飯塚冬酒
製作:横浜シネマ・ジャック&ベティ30周年企画映画製作委員会
2021年|日本|115分|5.1ch|アメリカンビスタ
宣伝・配給:GACHINKO Film

公式サイト:http://g-film.net/somebody/
コピーライト:(C)横浜シネマ・ジャック&ベティ30周年企画映画製作委員会

2022年1月29日(土)より横浜ジャック&ベティ、ユーロスペースほか全国順次公開

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