映画『平行と垂直』の公開を記念して8月29日に新宿バルト9にて舞台挨拶が行われ、安田章大、のん、小林聖太郎監督がそろって登壇した。

観客の温かい拍手に迎えられた安田は満面の笑みを浮かべ「“幸せ“安田章大です!」と挨拶。これにつられて(?)、のんは「“穏やか”のんです(笑)」と挨拶し、小林監督はしばし思案の末に「“悲観論者”の小林です(苦笑)」と自己紹介し、会場は笑いに包まれる。
企画段階から本作に携わってきた安田は「やっと届けられるというホッとした気持ちです。まずは0から1を一緒につくってくれた(原案・脚本の)山野海さんに感謝です。そして、一緒につくり上げてくれた監督、各部署のスタッフの皆様、俳優部ののんちゃん、周りを囲んでくださったたくさんの皆様に感謝しております」と感謝の思いを口にする。そして、客席を見やり「この映画をいつまでも息遣いのする映画にしてくださるのは皆様です。この日を迎えられて、本当に“幸せ”章大だなと思います」と嬉しそうに語った。

安田は、この作品に携わり、大貴という役に向き合ったことで変化した点について問われ「より強固になったという意味で、人はそれぞれ違いますし、それぞれの普通というものがある。それを否定せず、肯定して、時間を使って待つこと。そうして手を取りにいき、相手が嫌がった瞬間にまた待つこと――ちゃんとそれぞれのペースがあるということを再度確認しました。発達障害と定型発達というものがあり、そこは診断が下されているかどうかという分かれ方で、そういうものは確かにあるけど、人としてそれぞれ個性を持っていて、それぞれの光り方があるというのは、誰も変わらないということを改めて強く思いました」と語る。
そして、世間で語られがちな“普通”という概念に関しても「幼少期から『普通って何なんやろうな?』と思ってきました。僕は10代の頃からスカートも履いていましたし、ネイルもつけています。人がパッと見たら、『なんでスカート?』『何ネイルしてんの?』と言われていました。それぞれの普通がちゃんとあるんで、それを『あ、そうなんですね』と空返事の相槌ではなく、ちゃんと相手に興味を持った相槌の打ち方ができるようになったらいいなと思います。そうしたら日本が変わりますし、日本が変わればアジアも変わります。夢物語に聞こえるけど、誰かが変わらないと世界は変わらないと思います。この映画をきっかけにひとつひとつ変わっていけばと思います」と自身の思いを訴えた。
のんも、希という役に向き合ったことで自身に変化があったと深くうなずく。「家族のことをやっぱり考えました。自分は家族に支えられているのが当たり前になってたなと思います。自分の活動を応援してもらったり、実家に帰ればご飯をつくってくれるみたいなことが、いままでの自分は“亭主関白”だったなと思います(苦笑)。前よりも素直に『ありがとう』と感謝できて、『おいしい』と口に出して言うようになりました。最近は、家族の好きなものをリサーチしたり、知っているようで知らなかった部分をもっと知ろうという気持ちが芽生えてきました」と自らの変化を明かす。

今回、きょうだいを演じた2人だが、安田はのんとの共演について「演技ではあるので、お芝居なんですけど、信頼関係はお芝居じゃないと思います。相手を信頼して、心から動かされたものにこっちも心が動いていくということが起きているのが、今回の映画の中身だと思います」と演技を超えた信頼によって結ばれていたと述懐。
のんも「安田さんと演技したあの時間は、尊いものとして自分の中に残っています。安田さん演じる大貴の表情を見ると希としての感情が溢れてくるような感覚で、もう1回同じことを繰り返したいくらい幸せでした」とふり返った。
小林監督も、2人のやりとりに関してガチガチにプランを固めるのではなく、信じて任せていたことを明かし「一番目の観客としてカメラの横で見るような気分でいました」と楽しそうにふり返った。

トークでは、大貴の几帳面でこだわりの強い性格にちなんで、登壇陣それぞれに「他人にはなかなか理解されないかもしれない自身のこだわり」について質問。
安田は「最近、『変わってるね』と言われるんですけど、(自身にとっては)普通のことをしゃべりますね」と前置きした上で「家では全裸生活です」と告白。そして「お料理する時は、ちゃんと(下半身に)前掛けだけは着けます。『上半身は大丈夫か?』と聞かれたら『鍛えてる』と言うんですけど…」となかなか周囲に理解されない(?)こだわりを口に会場は爆笑に包まれる。ちなみに、劇中で大貴が卵焼きをつくるシーンも登場するが「そこは大貴として見てください(苦笑)!」と注釈をつける。そのシーンの練習を自宅でした時の恰好は…? との問いには「まあ、そこは皆まで言わず…(笑)」と言葉を濁し、会場は再び笑いに包まれた。
のんは「カーテンにはこだわって遮光のものを使っています」と明かし「5か月くらい前まではカーテンを開けずに過ごしていました。最近、植物を導入したので開けざるをえないんですが…しょうがない、あいつら(=植物たち)のためには…(苦笑)。ひとりきりの空間が落ち着くんです」と独特の習慣を説明。「以前は“モグラ”と呼ばれていました」と告白し、これには安田も「モグラって呼ばれてたの? いきなりの告白、びっくりするからやめてくれる(笑)」と驚いていた。
続いて、撮影を通じて、お互いに「ここはかなわない! と思ったポイント」を尋ねると、安田は「いまみたいに、いきなり“モグラ”発言とかするところがあるんですよ(笑)。突発的にキラーワードが出てくる、面白さですね。そういうところはかわないです」と評する。

一方、のんは「安田さんは本当に現場でも全員とコミュニケーションをとって、士気を上げてくださるんです。そういうところは本当に自分に足りないところだなって思って日々、尊敬の眼差しで見ていました。物事の辛辣な部分も美しい部分も、どちらも受け止めて、フラットに考えて言葉にされる方だなと思っていて、それは誰にもできることじゃないと思います」と語った。
小林監督は、のんについて「すごく山猫感がある」と独特の表現で評し「瞬発力があって、ちょっとブラックで、でも笑えるんです。見ていて楽しいです」と語る。また、安田については「本当に会ったことのない(タイプの)ひと」と語り「初対面で話をして、4時間後くらいには『私はどういう人間です』と告白させられていた」と述懐。「一歩間違えると危ない人(笑)。全財産を出して『わかりました!契約します!』ってなるかも(笑)。僕は人との距離が難しいんですけど、(安田は)いつのまにか、このへん(すぐ近く)にいるんです。それがイヤじゃないんです」と安田の“人たらし”ぶりを明かし、のんも「すごくわかります!」と深く同意していた。
舞台挨拶の最後に小林監督は「役に立つか、立たないか? みたいなことで、世の中の人間の存在価値として測られている気がして、それがここ10年くらい気になっています。この本をもらった時、そこに自分の問題意識がフィットしたので、恐ろしいけどやってみたいと思いました。『ただ、いるだけ』というのが許される世の中になれば、もっと豊かになると思っています。(映画を)見た結果、なるほどと思っていただけたら、周りの方に面白かったと言ってもらえると嬉しいです」と呼びかける。
のんは「大貴と希の物語が自分の中にあることで、皆さんのこれからが豊かになっていったらいいなと思っています。ぜひじっくりご覧ください」と語った。
そして、安田は「寛容な対話だったり態度、辛辣な対話だったり態度、そして時に無視をしてしまうという態度であったり、言葉にしないこと――世の中にいま、こういうことがはびこっていると思います。でもそれは、僕たちが一生懸命生きているから、そうしたくなくてもたまにそういうことが起きてしまうんだと思います。そのたびに反省したり『もうちょっとこうしてあげられたら良かったのに…』と落ち込んでしまったり、自分を励ましたりするんだと思います。ということは、皆様ひとりひとりが常々、内側でそういうことが渦巻いているということを理解し合えていれば、自ずとひとりひとりの距離が近くなるでしょうし、近寄っていいタイミングがあったら、近寄れる時が来ると思います。そうすることで日本が変わるだろうし、少しずつ変わっていく世界があると思います。それぞれが思っている普通は、人によっては違うかもしれないので、否定せずちゃんとそれぞれの普通を受け止めてあげてほしいと思います。何より『一人ぼっちじゃない』ってことだけは理解してほしいです。少なくとも味方がいますということを肝に銘じてください。そして、それぞれ違っていていいってこともよく心に留めてほしいです。この映画を通じてひとつひとつ、変えていければと思っています。なので、この作品を皆様が育ててください」と本作に込めた思いを語り、会場は温かい拍手に包まれた。
『平行と垂直』は全国公開中。

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