映画『平行と垂直』の大ヒット御礼舞台挨拶が9月16日に新宿バルト9で実施され、安田章大、原案・脚本の山野海、小林聖太郎監督が登壇した。

本作は、⾃閉スペクトラム症の兄の⼤貴(安田)と、兄を幼い頃から⽀えてきた妹の希(のん)の兄妹が、希の結婚話をきっかけに、お互いのこれからとこれまでに向き合うことになる、心あたたまるヒューマンドラマ。
舞台挨拶の冒頭、この日は残念ながらスケジュールの都合で登壇できなかった、のんからビデオメッセージが到着。のんは、本作の大ヒットを受けて「映画は見ていただいて完成するので、本当に皆さんのおかげです」と観客に向けて感謝の言葉を伝えると共に「安田さんが、山野さんと一緒にプロジェクトを立ち上げて、この物語を何としても届けなきゃいけないと尽力された思いが、こんなにもまっすぐに届いているんだなと思うと本当に感動します」と喜びを口にした。
そして「安田さんと過ごしたあの時間は、本当に私の中で宝物のように大切にしまってあります。紡いでいった時間が本当にキラキラとしていて、本当に『役者をやっていてよかったな』と思えるような、そんな時間でした。安田さんありがとうございました」と語った。
また小林監督にも「監督は、大阪弁を指導してくださって、本当に細かくこぶしの効かせ方や強弱に至るまで、全てを叩き込んでくださいました。大阪弁がこの作品の温かさを表現しているかなと思います」と感謝の思いを伝えた。
さらに「安田さん、山野さん、小林監督、そして本作に関わってくださった全ての皆さん、そして見に来てくださった皆さんに心から感謝の気持ちを伝えたいです。この映画が皆さんのこれからの人生を少しでも豊かにしていったらなぁと願っています。のんでした」と結び、会場は温かい拍手に包まれた。

続いて、安田、山野、小林監督が登壇したが、安田は、のんのメッセージを受けて「のんちゃんがいてくれたから、この作品が仕上がったので感謝しています」と語り、小林監督は「ちょっと『胸が痛いな…』と思って(笑)。大阪弁のこと、言い過ぎたかな…?」と苦笑を浮かべた。山野は「すごく嬉しくて、ちょっとだけ泣きそうになりました」と嬉しそうに語った。

そして、本作の観客動員数はついに10万人を突破したことについて、安田は「嘘みたいですね。本当に嬉しいです。これからも広がっていくんだなって思うと、喜びと同時にまだ先に進みたいと思う感想です」と喜びを噛みしめ、「(10万人という数字が)何が一番わかりやすい換算式なのかな? と考えた時、さっきも裏で話していて『東京ドームで2回公演してんねんで』って言われて『あぁ、すごいですね』と思いました」としみじみと語った。
本作は、安田と山野がバラエティ番組の収録で出会い、その際のアフタートークをきっかけに、企画として動きだした。安田は、山野との出会いから企画が劇場公開に至るまでの約3年をふり返っての心境を尋ねられると、「改めて人とのご縁が全てをつくるんだなって実感しているし、諦めてしまったら作品が生まれてなかったなと思うと、自分が生まれてきた意味も感じるなと思うし、ひいては海さんが生まれてくれているから、この作品がつくれているって思っていて、そこに聖太郎さんがいてくれているから、こんな風にできていて……ご縁がなければアカンねえなぁ…という感じがどんどん深まります。何が起きるかわからない世の中に、これが起きたっていうのが、これからも自分たちの動きは何かが起きるんだっていうことを実感できる体験です」と感慨深げに語った。
山野は「私の脳内にあったものを安田さんが引きずり出してくださった」と語りつつ、実際に安田と顔を合わせて、打ち合わせなどを行なったのが、この約3年半の間で「正味10日ぐらいしかないんですよ」と驚きの事実を明かす。

「物語をつくるために、人は10日しか会わなくてもこうやってできるんだっていう…すごい奇跡を感じています」と山野が語れば、安田は「お仕事で考えたら、(安田さんと山野さんが仕事を一緒にするのは、最初のバラエティに続いて)今日が2回目です(笑)」とうなずき、会場は笑いに包まれた。
小林監督は本作の監督のオファーを受けて「自分が、(ASD=自閉スペクトラム症を)本当に自分のこととして描くための資格があるかどうか?という自問自答をして、数日は躊躇しました」と明かす。それでもオファーを受諾した理由について「この原案の物語を(自身が)見たいなと思ったし、『世に出すべき』というのが一番だったと思います。大貴(安田)というASDのある主人公が、特殊なスーパーな隠れた能力があるわけじゃなくて、本当にそこにいる人だっていうことが『いいな』というのと、その妹(のん)が、それをどう感じたか?どう受け止めたか?という話であり、その2つがやっぱりいいなと思いました」と語った。

安田は、山野の構想を聞いて、企画から本作に携わることを即断した理由について「みんな、それぞれに自分の考え方がありますが、それをねじ伏せられる世の中な気がしてて、それをすぐに誹謗中傷化させるという、ワケのわからない世の中になっているから、『まずは受け入れようよ』という見方が絶対に要るし、誰かが誰かのそばにいれば、何かしら変わっていくんだなと思ったというのが、理由として大きいですね。0から1をつくらないと、変えていくことはできないっていうのは、昔から思っていました。その中で『人それぞれでいいんだから、それぞれを伝えよう』という、大きな言葉を届けてくれるきっかけだったのが、大きな理由ですね」と自らの内にある思いを語った。

山野は、安田との最初の出会いに触れつつ「(対談で)いろいろ話していくうちに、(本作の)構想を話しながら、私は頭の中で『大貴がいた!』って思ったんです」と述懐。その真意について「(安田さんは)いろんなものを共有してくれるし、わかってくれる。“決め”がないんですね。『ここから先は僕はやらない』とか『これは好きではない』とか決めない方なんだと思うし、それはいまでも変わってないです。ASDを持っている大貴と希の日常を私は書きたかったんですけど、それに対して、安心して私の思いを共有させてもらえるんじゃないかと思って、実際にそうなりました」とふり返った。
安田は、山野の言葉を受け「ASDという発達障がいと定型発達なんてものは、世の中で名前が付けられただけだとしか認識してなかったし、みんな横並びでしょ?そんなに区切って、区切って、世の中『はい、OK』みたいな形はないなと思っていたので、僕の中ですごく腑に落ちた答えで、『これは世の中に出さないと!』、『まずは小さなところから広めていく必要がある』と思ったし、それが少しずつ世界を動かすと思いました」とうなずいた。
大阪府の堺市を舞台に展開する本作だが、大阪出身の小林監督は「僕は25まで大阪にいて、(大阪に対して)愛憎の両方があるんです。純粋に『地元好きなんです!』っていうタイプじゃないんですけど(笑)、その憎しみと愛しさを含めて、人と人の距離が近いところがちょうどこの物語に合うだろうなと思いました」と説明した。

一方、山野は東京出身とあって、脚本執筆の段階での小林監督からの大阪弁に対する指摘について尋ねられると「マジで腹立ちますよ(笑)。ここは『ね』だとか『う』だとか…後でいいじゃん!途中で『関西弁警察、うるさい!』って言いました」と苦笑交じりにふり返り、安田は「(打ち合わせの場で)僕はそれを静かに見ていました(笑)」と明かし、会場は笑いに包まれた。

なお、この日は山野の61歳の誕生日であり、先日9月11日は安田の42歳の誕生日だったということもあり、映画のヒットと併せ、本作の佐藤現プロデューサーから、安田、山野、小林監督に花束がサプライズでプレゼントされた。
安田は「普段、出歩かない人間で、『(誕生日の)お祝いやから、外でご飯食べよう』みたいな人じゃないんで、なんか嬉しいですね。この映画のヒットのおかげで、こうやって花束がもらえているというのを感じます」と喜びを口にし、会場は改めて祝福の拍手に包まれた。
舞台挨拶の最後に山野は「この物語は大貴と希という、堺市に住んでいる兄妹の、とある日常を描いた作品です。兄はASDを持っていますが、私はこの物語に敵を出したりとかをしたくなくて、映画を見終わった後もこの兄妹が堺市で日常を迎えていると思っていただければ一番いいなと思って書いています。まず、いろいろなことを知っていただく、そのきっかけになれば嬉しいと思います。考えるのは後でいいと思います。まずこの映画を見ていただいて、知っていただければ、こんな幸せなことはございません」と呼びかけた。
そして、安田は「常々、生きていると『一人ぼっちだな』って感じがする瞬間があると思うけど、『一人じゃないな』と思ってもらいたいなと思っています。生きていて苦労することって、それぞれあると思うんですけど、その苦労は、自分じゃない誰かを助けるために起きていると覚えていてください。自分自身に起こる苦労っていうのは、自分が乗り越えるためではなくて、誰かを助けるための苦労である――誰かのために自分が生きられるようになるっていうことを感じてもらえたらなと思っています。それが初めて、誰かを一人にしない、味方になれるということだと思います。なので、この映画を見る中で、僕がいま、伝えさせていただけたような言葉をもう一度、反芻できるように汲み取ってもらえたらなと思っています。常々、自分が一人じゃないということ、味方がいると思えることを大事にしてみてください。そしたら、自分の人生、思ったより豊かです。自分が感じているより豊かだなって感じて、今日はこの映画を見終わった後、帰ってみてください」と語り、会場は再び温かい拍手に包まれ、舞台挨拶は幕を閉じた。
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