ドキュメンタリー映画『ラジオ・コバニ』シリア国境の町でラジオ局をはじめた女子大学生ディロバン・キコ インタビュー

ラジオ・コバニ

過激派組織「イスラム国」(IS)との戦闘により廃墟と化したシリア北部のクルド人街コバニで、ラジオ局を立ち上げた20歳の大学生ディロバンを追ったドキュメンタリー映画『ラジオ・コバニ』が、2018年5月12日(土)より、アップリンク渋谷、ポレポレ東中野ほか全国で順次公開する。監督は、自身もクルド人のラベー・ドスキー。地雷や戦車を越えコバニに赴き戦地での撮影を敢行、クルド人兵士によるIS兵士の尋問にも立ち会った。本作を、戦死したクルド人兵士の姉に捧げている。

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大学生の時、シリア国境の町でラジオ局をはじめた ディロバン・キコ インタビュー

「中東で生きる女性の人生は過酷」

―「イスラム国」(IS)との戦闘で瓦礫と化したシリアの街コバニでラジオ局を立ち上げ、「おはよう コバニ」の放送を始めた経緯を教えてください。
ラジオは2014年に始めました。私自身が自分にとって役に立つ正確な情報を求めていたからです。コバニからトルコに逃げている時、私はコバニで何が起きているのか知るために、ずっとFacebookを見ていました。父と兄がコバニの街を守るために戦っていたので、とても心配だったのです。そういった経験から、コバニに戻って「おはよう コバニ」を始めることにしました。自分や他の女性たちに必要だったのです。

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―映画の女性たちの強さに惹かれました。武器を持ち闘う女性の戦闘員がいるのもそうですが、あなたや住民の意思の強さを感じました。その強さについてあなたはどう考えていますか?
中東に生きる女性の人生は過酷です。「イスラム国」(IS)であれ、男性が作った他のシステムであれ、その中で生きるのは厳しいことです。女性は男性たちの性の対象と見なされ、家の中に閉じ込められます。しかし、シンジャールでISが3000人以上の女性と子供を拉致し、性奴隷として売ったことを知り、私たちは立ち上がりました。コバニにISが攻めてきた時、私たちは逃げるか、戦うしか選択肢を持ちませんでした。

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コバニの女性たちの多くがシンジャールのヤジディ教徒のようになりたくなかったのです。あるものは逃げ、あるものは自らの名誉を守るために武器を手にして戦いました。この戦争によって、女性の地位は以前より向上したとおもいます。

―映画は「まだ生まれていない子供への手紙」によって語られていく構成ですが、ラベー・ドスキー監督から手紙を書くよう依頼を受けてどう思いましたか?
「まだ生まれていない子供への手紙」のアイディアが固まったのは、撮影が進み、戦争の状況も進展してからです。子供と言われて最初は戸惑いましたが、ラベーから新しい世代のメタファーだと聞き納得しました。自分の身に起きたことをすべて書き、彼が手紙としての形を整えるために多少手を加えました。それは、日常的に書くような手紙ではないので、もちろん大変でした。自分の感情について語るのは難しいし、私には子供がいないので、子供に宛てて書くという点も難しかったです。また、私は悲惨なことを知りすぎていたために、最初はうまく文章にできませんでした。自分自身の記憶、友達の死、街から逃げたこと、私にとって戦争とは何か。どれも書くのは大変でした。

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―映画は2014年~2016年のコバニを捉えています。現在の様子ついて教えてください。
コバニの街は敵に囲まれています。片方はトルコに、他方はシリアやイラクなどにです。コバニが解放されてから、トルコ当局により国境が封鎖されました。ISを支持するトルコ大統領のレジェップ・タイイップ・エルドアンは、ISの敗北を何が何でも受け入れようとしないのです。980kmも続くロジャバ(シリア北部)との国境に壁を作り、通行を禁じています。また、エルドアンはイラクの北部との国境も封鎖し、私たちの街の再建を阻もうとしています。再建に必要なセメントや鉄が手に入らないのです。コバニの街の再建こそが多くの雇用をうむのに、人々は働く機会も得られず、現時点で街の60%が放置されたままです。

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戦争の間は世界がコバニに注目していたのに、戦争が終わった今、皆はコバニを忘れてしまっています。国際的な支援組織は特にそうです。

―最後に、最近いちばん楽しかったことを教えてください。
パートナーがサプライズで私を喜ばせてくれました。結婚1周年の記念日に、レストランに連れていってくれたのですが、そこに大勢の友達も招いていたのです。友達と一緒に結婚記念日を祝いたいと考えてくれたのはうれしい驚きだったし、私にはない発想でした。その後、もう1つ素晴らしい変化がありました。戦争が始まる前、私はアレッポ大学で社会学を学び、教師を目指していたのですが、戦争のせいで仕方なく学業を中断し、コバニに戻ったのです。
でもこの1年で短期間の教習コースを修了し、ラジオを辞め新しい職を得ました。私は今は小学生を教えています。教師になるという夢がついに叶いました。ラジオは友人たちが続けています。今は教師として伸び盛りの子供たちをサポートできてとても幸せです。多くの子供たちが心に傷を負っており、私もまた同じ悲惨さを経験してきました。大人は悲惨さを自分の中で処理できますが、子供たちはそうではありません。そうした子供たちを少しでも助けられることがうれしいのです。この場所からコバニに希望を取り戻し、教育を通じて、憎しみを持たない新しい世代を育てたいと願っています。

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ストーリー

ラジオから聞こえる「おはよう」が、 今日も街に復興の息吹を届ける

トルコとの国境に近いシリア北部のクルド人街コバニは、2014年9月から過激派組織「イスラム国」(IS)の占領下となるも、クルド人民防衛隊(YPG)による激しい迎撃と連合軍の空爆支援により、2015年1月に解放された。人々はコバニに戻って来たが、数カ月にわたる戦闘で街の大半が廃墟と化してしまった。
そんな中、20歳の大学生ディロバンは、友人とラジオ局を立ち上げ、ラジオ番組「おはよう コバニ」の放送をはじめる。生き残った人々や、戦士、詩人などの声を届ける彼女の番組は、街を再建して未来を築こうとする人々に希望と連帯感をもたらす。

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作品タイトル:『ラジオ・コバニ』
監督・脚本:ラベー・ドスキー
(2016年/オランダ/69分/クルド語/2.39:1/カラー/ステレオ/DCP)
字幕翻訳:額賀深雪
字幕監修:ワッカス・チョーラク
配給:アップリンク

公式サイト:http://www.uplink.co.jp/kobani/

2018年5月12日(土)より、アップリンク渋谷、ポレポレ東中野ほか全国順次公開

記事提供:映画・ドラマニュース

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