【レポート】上野千鶴子氏が語る『第三夫人と髪飾り』女性への大変な抑圧を美しい映像で描き出した監督の手腕に脱帽!

第三夫人と髪飾り

世界の巨匠たちがその才能を認めたアッシュ・メイフェア監督の衝撃のデビュー作『第三夫人と髪飾り』が、Bunkamura ル・シネマ他で絶賛公開中だ。
このたび、10月25日(金)に映画ヒット記念<上野千鶴子氏トークイベント>が開催された。本国ベトナムをはじめ東南アジア諸国では、一夫多妻のテーマはもとより官能的な描写が大きな物議を醸した一方で、世界70以上の映画祭に出品され受賞を重ねてきた本作。
物議と絶賛入り乱れた、アッシュ・メイフェア監督衝撃のデビュー作について、女性学、ジェンダー論の第一人者であり、社会学者・東京大学名誉教授である上野千鶴子さんがたっぷり語った。

家という狭い世界に描かれる濃密な関係にハラハラドキドキ。
女性への大変な抑圧を美しい映像で描き出した監督の手腕に脱帽!フィルモグラフィーを追いかけていきたい。

観客と一緒に映画を鑑賞した上野さん。客席からそのまま舞台に上がると「いや~、素晴らしかったですね!」と映画の興奮そのままにトークがスタート。
「小物、水、蚕などディティールが行き届いている。監督のアッシュ・メイフェアさんはこれだけの若さで(現在34歳)、こんな映像美を作れるなんて本当にすごいと思います。描かれていることを、遠い時代の遠くの世界の話だと思わないで欲しいんですね。これは監督の曾祖母の経験に基づいて作られた話ですが、私たち日本人だって、曾おばあちゃんの時代はこんなもんですよ。日本でいう明治時代ですが、娘しか産まない女には価値がない、生殖力の強い女性を妻にしていくという時代だった。明治天皇には側室が16人いました。明治の時は、映画と同じで10代で嫁ぐのが普通。私の祖母は16歳で嫁いで子どもを産んで19歳で離婚していました。他に妻妾同居の人もいましたし。歴史的には普通にあったことで日本もあまり変わらなかったんですよね」

「この映画を観ていると、すごくハラハラドキドキして事件が起きるんじゃないかと思うシーンがあるでしょう? 狭い世界でもとても濃密な関係があって。私は、あの秘密の恋がばれたらどうなるんだろう。メイちゃん(第三夫人)が流産していまうんじゃないか。あと、舅が息子の妻たちにいつ手を出すのではないかとハラハラしていました。日本でもざらにあったことですが、家の嫁に対する性的な権利は夫だけでなく舅も持つのです。こうやってみていくと、本当に大変な抑圧を描いている映画なのだけれど、それをこの美しい映像と共に淡々と描きだして、すごい監督だな~と思いましたね」

「メイフェア監督はご自身もかなり波乱にとんだ人生を送った方で、13歳の時、お母さんが11歳の妹を連れてアメリカに移住しちゃったんですね。それで彼女はひとりオーストラリアの寄宿学校に預けられた。オーストラリアからオクスフォード大学に進んで、その後ニューヨーク大学で映像を勉強して映像作家になった。かつての敵国で監督になったということもすごい。そして、彼女にとっての母国ベトナムを舞台にしたこの傑作を、ベトナムで上映したらなんと4日で上映をやめてしまった。それをご存じの方はどれくらいいらっしゃる?」

(会場でほとんどの手が上がると)

「みなさん、さすがですね!」

「日本でもネットニュースに載っていましたけど、性的に非常に厳格な社会で、当時13歳だったメイちゃん(メイ役のグエン・フオン・チャー・ミー)の演じた役について、母親が金で娘を売ったというネット上の悪評を立てられて、そのバッシングの嵐に耐えられなり、チャー・ミーさんとお母さんを守るために監督ご自身で上映中止を決めた。でもこの映画のセックスシーンの何が問題だったのでしょう」

チャー・ミーはオーディションの時、メイ役は自分の為にあると母親を説得し、監督に直接電話をかけてきてそれを訴えた。メイ役には約900人の少女をオーディションしていたが、監督はそのチャー・ミーの勇気と行動を受けてもうこの子しかいないとキャスティングした経緯がある。

「13歳をバカにしちゃいけませんよ。だって1世紀前の13歳は映画と同じ経験をしたわけですから。彼女を起用したというのはすごいことだと思います。素晴らしいキャスティング」

「『第三夫人と髪飾り』は、監督の曾祖母の時代の話ですが、曾祖母、祖母、母、メイフェアさんの時代と、ベトナムは、仏領、独立後、南北分断、戦争と、本当にいろんなことがあって歴史に翻弄されてきました。メイフェアさんは自分史が宝の山、埋蔵資源をいっぱい持っている。次にどんなことをやってくれるんだろうと期待が高まります。これから先もフィルモグラフィーを追いかけていきたい監督。皆さまも先物買いですね」

 

移りゆく季節。色づく予感。女たちのドラマが今、幕を開ける―。

ストーリー
19世紀の北ベトナム。14歳のメイはその地を治める富豪のもとに、三番目の妻として嫁いでくる。一族が暮らす大邸宅には、唯一の息子を産んだ穏やかな第一夫人、3人の娘を持つ美しい第二夫人がいた。まだ無邪気だったメイは、この家では世継ぎとなる男の子を産んでこそ“奥様”になれることを知る。やがてメイは妊娠。出産に向けて季節が流れる中、第一夫人も妊娠していることが発覚。時を同じくしてメイは、第一夫人のひとり息子ソンと、第二夫人のある秘密を知ってしまう。

作品タイトル:『第三夫人と髪飾り』
出演:トラン・ヌー・イェン・ケー、グエン・フオン・チャー・ミー、マイ・トゥー・フオン(Maya)
監督:アッシュ・メイフェア
美術監修:トラン・アン・ユン
2018年/ベトナム/93分
配給:クレストインターナショナル  R15+

公式サイト:http://crest-inter.co.jp/daisanfujin/
コピーライト:(C)copyright Mayfair Pictures.

Bunkamura ル・シネマ他全国順次公開中


関連記事:
【応募終了】ベトナムの秘境を舞台に、第三夫人として14歳で嫁いだ少女が主人公『第三夫人と髪飾り』試写会10組20名様

↑上に戻る