【レポート】ユ・アイン主演『声もなく』映画評論家・森直人氏登壇!トークイベント付き試写会開催 ―1月21日(金)公開

声もなく

アジア・フィルム・アワードで2冠(主演男優賞・新人監督賞)に輝くなど、アジアの各映画賞を席巻中の『声もなく』(1月21日(金)公開) のトークイベント付き試写会が 1月13日(木)に、シネマート新宿にて開催され、映画評論家の森直人氏が登壇した。

貧しさゆえ犯罪組織からの下請け仕事で生計を立てる口のきけない青年テインと相棒のチャンボクは、身代金目的で誘拐された11歳の少女チョヒを預かる羽目になり、期せずして誘拐犯罪に巻き込まれていく。犯人と人質という関係でありながら、社会に居場所を持たない彼らはいつしか疑似家族のようになっていくが、彼らの“誘拐”は予測不可能な事態へと向かっていくーー。本作は、「期せずして誘拐犯になってしまった男」と「女児であるがゆえに親に身代金を払ってもらえない少女」、出会うはずのなかった者たちの巡り合わせを切なく描き、韓国社会で生きる声なき人間たちの孤独感を浮き彫りにした珠玉のサスペンスだ。

声もなく

作品の感想を聞かれた森氏は「すごく面白かった。傑作だと思います。」と開口一番に大絶賛。本作の作風については「見る前にこういう映画だと予想するのが難しい、独特の味だと思いました。たとえば、韓国のクライム映画というジャンルで捉えると、濃厚なものが多い。12月に公開された『ただ悪より救いたまえ』も典型的な韓国の犯罪ミステリーもののイメージがあるが、『声もなく』はそこからクールな距離というか、ある種のアイロニカルな距離をおいている作風だと思いました。一番大きいのは夏の映画であること。特に前半、緑が多くて明るく牧歌的な田園風景が続いて、セミの鳴き声、扇風機がまわってるなか誘拐された11歳の少女チョヒがやってくるわけですが、夏休み感すらあるというか、夏の描写が爽やかなんですよね。彼女が住むことになるバラック小屋のすぐ近くで日常的にヤクザが殺害されていたり、実際に起こっていることはもちろんエグいんですけど。でもその殺害現場もとぼけていて(笑)。最初、男が吊るされてて、死ぬのかこいつは?っていう雰囲気が漂うなか主人公の二人が淡々と作業していく。シュールでありクールでもあり、ある種のブラックコメディ性を考えると、レファレンスが難しいんですけど、あえて言うならコーエン兄弟っぽいと思いました。」と分析する。

さらに「社会的マイノリティ、疎外された者たちが、はからずも社会の片隅に平穏なコミュニテイを築く展開があって、そこに甘い時間が流れるんですよね。是枝裕和監督の『万引き家族』を連想される方も多いのではないかなと思います。ただ、コーエン兄弟と『万引き家族』が合体している映画っていうイメージを、韓国の犯罪ミステリーであるところから連想するのは難しいと思います。」と作風の独自性を語った。

社会から疎外された者たちを鋭く描いた、他の韓国映画との共通点については次のように語った。「チョヒがさりげなく「お父さんは弟がいれば十分だから」とつぶやく。これはさりげないディテールですが、たとえばキム・ボラ監督の『はちどり』でも似たシーンがあるんです。『はちどり』でも家父長制や男尊女卑の根深い慣習の問題が見え隠れしている。チョヒの弟が次の家長としてお父さんの期待を背負っている事情が透けているじゃないですか。チョヒは期待を受けていないから阻害感を感じているんだけど、逆に、弟は過酷な受験勉強だとかエリートコースを過度に期待されて抑圧されているのかもしれないとも想像できる。僕はこういう細かい部分で想像が働く映画がすごく好きなんですね。韓国社会のザラザラした実相とか現実の歪みを反映したドラマでいうと、ユ・アインが出演したイ・チャンドン監督の『バーニング 劇場版』、ポン・ジュノ監督の『パラサイト 半地下の家族』ともつながりますね。ポン・ジュノでいえば『殺人の追憶』のイメージをもたれる方も多いかもしれない。田園風景だったり、まさかこんな場所でというところで犯罪が起こるところとか。」

声もなく

本作のホン・ウィジョン監督は1982年生まれの女性監督だ。韓国では女性監督たちの活躍が目覚ましいが、それについて森氏は日本でも公開された作品をいくつか引き合いに出した。「ホン監督は、まさに「82年生まれ、キム・ジヨン」(チョ・ナムジュ著/筑摩書房)世代になりますが、『はちどり』のキム・ボラ監督は81年生まれで、この世代が一つのムーブメントになっている印象があります。『夏時間』のユン・ダンビ監督は90年生まれで、少し若いですが、似たような感覚がありますね。あと犯罪ミステリー的なヒューマン・ドラマで、僕が一番近いと思った韓国映画は、イ・チャンドン監督がプロデュースし、ペ・ドゥナが若い警察官を演じた『私の少女』ですが、監督のチョン・ジュリは80年生まれの女性なんです。『私の少女』は田舎を舞台に少女のネグレクトの問題が絡んでくる映画です。」

口の利けない誘拐犯テインを熱演したユ・アインについては「セリフが全然ないわけですが、すごいですよね。不自然じゃないんですよね。故意にセリフをなくすようなあざとさはなくて、彼の場合は意外に理由がわからない、というか、そこぼかしてますよね?今回も、“聖なる愚者”というか、アメリカ文学でも良く使われる言い方ですが、テインはそういうイメージがあって。イノセントな役ですよね。図らずも悪の側、裏社会の側で死体遺棄というダーティな仕事を請け負っているわけですが、彼はどこまでもイノセントであるっていうのが、喋らない、言葉を言語化しないところも含めてすごく出来上がっている。」と称賛。

最後に「観たことがない構造の犯罪映画。半分ジャンル映画のようなところもあり、とにかくいろんな類似作を挙げましたが、結果見当たらないという(笑)」と、やはり他に類を見ない作品であることを再確認してトークは締めくくられた。

『声もなく』は1月21日(金)より、シネマート新宿、シネマート心斎橋ほかにて全国順次公開。

イントロダクション
ユ・アイン(『バーニング 劇場版』)が、無名の新人監督の低予算のオリジナル脚本作品に出演したことが韓国での公開前から大きな話題となっていた本作。
ユ・アインは、一切セリフがない難役に、体重を15kg増量して挑み、ベテラン俳優たちをおさえ韓国のアカデミー賞と呼ばれる青龍賞で最優秀主演男優賞を受賞し、韓国のゴールデングローブ賞とも称される百想芸術大賞では最優秀演技賞を受賞した。さらには、アジア各国の映画が対象となるアジア・フィルム・アワードでは、『すばらしき世界』の役所広司もノミニーに並ぶなか見事最優秀主演男優賞を獲得するなど、主要映画賞を総なめにしている。

また、自身によるオリジナル脚本によって監督デビューをはたした1982年生まれのホン・ウィジョンは、犯罪映画の常識を覆すユニークな演出と個性的なキャラクター描写で、切なさとアイロニーの入り混じる全く新しいサスペンス映画を作り上げ、青龍賞と釜日映画賞アジア・フィルム・アワードで新人監督賞を受賞。さらに百想芸術大賞では新人の枠を超え監督賞を受賞。ホン監督は、その巧みな演出力とともに、社会性とエンターテインメント性を見事に融合させた脚本も高く評価されており、青龍賞、百想芸術大賞、アジア・フィルム・アワードで脚本賞にもノミネートされた。

ストーリー
犯罪組織から命令され死体処理などの裏稼業で生計を立てる、口のきけない青年テイン(ユ・アイン)と相棒のチャンボク(ユ・ジェミョン)。ある日、犯罪組織のボス、ヨンソクからの無茶な命令で、身代金目的で誘拐された11歳の少女チョヒ(ムン・スンア)を1日だけ預かることになる。ところが、依頼をしたヨンソクが組織に始末され、ふたりは予期せず誘拐事件に巻き込まれていくことに…。

作品タイトル:『声もなく』
出演:ユ・アイン『バーニング 劇場版』/ユ・ジェミョン「梨泰院クラス」/ムン・スンア
監督・脚本:ホン・ウィジョン
製作:キム・テワン『Okja/オクジャ』
撮影:パク・ジョンフン『悪女/AKUJO』
音楽:チャン・ヒョクジン&チャン・ヨンジン『鬼手(キシュ)』
編集:ハン・ミヨン『藁にもすがる獣たち』
2020年/韓国/韓国語/99分/ビスタサイズ/原題:소리도없이 英題:Voice of Silence/G
配給:アット エンタテインメント

公式サイト:http://koemonaku.com
コピーライト:(C) 2020 ACEMAKER MOVIEWORKS & LEWIS PICTURES & BROEDMACHINE & BROCCOLI PICTURES. All Rights Reserved.

2022年1月21日 (金)、シネマート新宿、シネマート心斎橋ほか全国順次ロードショー!

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