ファティ・アキン監督最新作『白パンと独裁者』のジャパンプレミアが7月16日にゲーテ・インスティテュート東京にて実施され、上映後にドイツにルーツを持つマリウス葉が登壇し、トークイベントが実施された。

温かな雰囲気の中登壇したマリウス葉。冒頭の挨拶では「映画のイベントが初めてなのですごく緊張しています、僕でいいんですか?」と恐縮しながらも「とても素敵な映画だったので携わることができて嬉しいです」と笑顔で語りイベントがスタート。
まず作品を見た感想について問われると、戦争が終わるその瞬間を子供の目線で描いている点が1番響いたと話すマリウスは、「子供から見て何が正しいか分からない時代。戦争で焼かれたハンブルクからアムルムという孤島に移住し、島で様々な試練に直面しながらも、12歳の主人公・ナニングが学びながら成長していく過程が良かった」と振り返った。

本作は、長いキャリアを持ちながらも昨年惜しまれつつ世を去ったドイツの映画監督であり名優ハーク・ボームの、幼少期に体験した実話を基に自ら脚本を書き下ろした物語。ボーム自らメガホンをとるはずだった物語を託された愛弟子のアキンは、230ページ以上にも渡る壮大な脚本を改稿し、唯一無二の美しい映画を創り上げた。

このバックグラウンドについて事前にリサーチしてきたというマリウスは、アキンのインタビュー内で読んだ“私の親はナチスだった。それでも愛していた”というボームの言葉が強く印象に残ったという。
「親がナチスだということがどのような意味をもつのか子供には理解できない。それでもただ認められたい、愛されたいという気持ちを、ボームの最後の作品として映画に残したというストーリーが凄い。白黒つけたがる今の世の中で、勇気ある映画だなと思いました」と称賛しつつ、「自分と思想の違う人を良い悪いで判断するのではなく、なぜそこに至ったのだろう?を考えることはすごく大事だと思う」と熱く想いを語った。

ヒトラーに心酔していたナニングの母は彼の死を知った瞬間に体調を崩し、何も口にしなくなってしまう。そんな母親が唯一食べたいと欲した“たっぷりのバターとはちみつつきの白パン”を用意するため、食料が乏しい中、島中を奔走する少年の冒険が描かれる本作。ただ母親を喜ばせたいという思いで材料を集めていく光景は見ていて楽しかったと話すマリウスは、「無邪気な子供時代を送っていたナニングは、世の中そんなに甘くないことを知っていきますが、自分にもこんな時代があったなと思いました」と自身の少年時代を重ねて振り返った。
幼少期にドイツから日本に移住したマリウスは、都会・ハンブルクからアムルム島へ移り住んできたナニングと似た境遇で育った経験から、「自分が育った環境を一回出てみないと、自分が誰なのか分からない」と述懐。「僕はベルリンではドイツ人と認識されますが、田舎の村だとドイツ人じゃないと言われる。自分はどこに属しているんだろうと考えさせられる体験は沢山ありました」と自身の経験をナニングに重ねながら語った。

本作のもう1つの見どころである、アムルム島の絶景については「行ったことはなくても、北部の島の風景の美しさはドイツ人なら誰もが知っている」と話すマリウス。「アムルム島は行ったことがないので、今度ドイツに帰省する時におばあちゃんと行きたいなと思っています」と今後の抱負を語りつつ、「島は夏に行けばとても綺麗なんですが冬は過激なので、映画が冬じゃなくて良かった。誰も行きたくなくなっちゃうので」と笑いを誘いつつ、ナニングが出会う様々な葛藤と美しい映像、そのバランスが面白いと太鼓判を押した。

ドイツと日本にルーツを持ち大学時代をスペインで過ごしたマリウスは、世界各国の文化の違いで印象的なエピソードを問われると食文化の話に。「スペインでは夜ご飯を食べるのが一般的に22~23時なことにびっくりしました。ドイツは早いと17時には食べるんです」と、自ら経験し驚いた文化を紹介しつつ「“Kaltes Essen”と言うんですが、ドイツではパンとサラミ、そしてサラダといった冷たいご飯を夜に食べるのが一般的なんです」と故郷ドイツの食について説明。
そして、映画の内容にちなみ、ナニングの母親にとっての白パンのように、これさえ食べれば元気が出る食べ物は?と聞かれると、ドイツ南部の郷土料理Kasespatzle(ケーゼシュペッツレ)をあげたマリウス。「マカロニ&チーズみたいな料理ですが、マカロニではなく麺のようなイメージです。ご褒美として自分で作ることもありますが、少し重たいので大勢で食べると良いです。ぜひ作ってみてください!」と観客に投げかけた。また、料理が大好きだというマリウスは「スペインにいた時はよく自宅に友人を招き、和食や中華をビュッフェスタイルで振る舞ったりしていました」という社交的なエピソードも披露。

最後に、これから映画を見る方へ「激動の時代を子供目線で描いている作品で、心に響くところが沢山あると思いますし、“自分の親の言うことが全てではない”という気付きは誰しもが共感できると思います。少年が成長していく姿はもちろん、アムルム島の本当に素敵な景色も楽しめるので、多くの方に見て頂けたら嬉しいです」とメッセージを投げかけ、和やかな雰囲気の中イベントは幕を閉じた。
