【レポート】ケン・ローチ監督『家族を想うとき』トークイベントにライター・武田砂鉄さん&放送作家・町山広美さん登壇!

家族を想うとき

ケン・ローチ監督最新作『家族を想うとき』が12月13日(金)より、ヒューマントラストシネマ有楽町、新宿武蔵野館ほかにて全国順次公開となる。

そして11月28日(木)、本作に「そうなったのはオマエのせいだろ、と突きつけてくる社会。出口はどこにあるのか。出口を塞いでいるのは誰なのか。」とコメントを寄せた武田砂鉄さん(ライター)と「思わず観客の口をつくのは、どんな言葉か。それが大きくなれば、社会はどう変わるか。監督はその声を求めて、もう一度映画を撮ったのだろう。」(※11/7発売のInRedより抜粋)と評する町山広美さん(放送作家)のトークイベントが開催された。

武田砂鉄さん&町山広美さんトークイベント 概要

日時:11月28日(木) 20:45~21:15 ※上映後実施
登壇者:武田砂鉄さん(ライター)、町山広美さん(放送作家)
場所:ユーロライブ

場内の大きな拍手に迎えられ登壇した武田さんと町山さん。まず始めに、83歳の名匠ケン・ローチ監督のイメージについて、武田さん「ピンク・フロイドのロジャー・ウォーターズ、彼が76歳で。ライブで豚の気球を飛ばして、そこにトランプ大統領のイラストを印字するというパフォーマンスがあって(笑)彼らが怒る理由というのが、この作品を観てわかる。」とコメント。町山さん「70歳、80歳の監督は、スコセッシ監督など然り、今は珍しくない。ダルデンヌ兄弟も同世代で、彼らも『サンドラの週末』という労働問題の映画を撮っていて。」と言い、続けて本作について「行動したくなるような終わり方をしていて、行動しよう、という監督の強い意志を感じた。」と語り、トークがスタートした。

次に本作の感想について、町山さん「ヤクザ映画を観たような気持ちになった(笑)。相手の組の事務所にひとりでカチコミに行くような感じ。普通に生活しようとしている人が、ヤクザ映画のような目にあってしまうということが問題。」とキャッチーな表現で語り、続けて「個人事業主システムは権利を与えているようで、実は奪っている。見事に彼らはどんどん奪われていくんですよね。」と搾取される働き方の問題に声をあげる。武田さん「横田増生さんの『潜入ルポ amazon帝国』を読むと、この物語の構図と似ていて。同じようなシステムなんだなと感じた。」と分析。町山さん「この映画を観ると、(通販で)ポチっていいのかなと感じる。私たちが時間指定することで、労働環境を悪くしているんだなと。」と普段の生活の視点から、省みるものがあるとコメント。

映画の印象に残ったシーンについて武田さん「携帯電話の呼び鈴。あれが鳴る時に胸がキュッとなる。皆さんも試写会が終わったら、携帯をチェックして、あいつから連絡がきているから、トークイベントを聞かないで帰った方がいいのでは、連絡した方がいいのではないか、というように。短いスパンで色んなことに迫られる。それがあるので避けられない。介護福祉士の母親もそうですよね。あの呼び出しがなければ、追加の仕事が入ってこないのに…。でも、それで生活が成り立ってしまっている。」と電話1本で仕事に縛られてしまうことへの恐ろしさについて振り返り、町山さん「携帯を持っていることで、重複した活動をできるし、時間を分断できる。家族で楽しくご飯を食べていても、電話1本でそれが壊れてしまう。」と語る。

映画で描かれる家族の姿について、武田さん「タイトルは『家族を想うとき』だけど、家族の枠組みを超えて他に頼るところがないから、結局家族に頼るしかない。それは日本社会も一緒で。親がだめなら、おじいちゃん、親戚に頼ったり、とにかく血縁で解決しろ、ということが起きている。」と孤立化している現状について分析すると、町山さん「最小単位の家族で助け合えと。他の連帯の関係を崩していっている。」とセーフティネットの問題について語る。

本作で描かれている働き方の問題について、町山さん「監督は長きにわたり、イギリスの労働者の姿を描いてきて、映画のなかの登場人物たちも労働者階級という自覚があるわけで。一方、日本では、自分が労働者だと思っていなくて、消費者だという自覚でいる。だから、日本の方が切迫しているのではないかと思う。」と国民の意識の視点から問題を提起する。武田さん「令和で元号が変わったとき、同世代の派遣社員の友達が10日間も休むと生活が大変と言っていた。その苦悩は、新聞やテレビでは伝わってこない。労働の観点で何かあると、自己責任を使って、儲けられないのはお前のせいだと言われてしまうんでしょうね。」と自己責任で片付けられてしまう風潮に疑問を呈する。

町山さん「働き方改革は、働かせ方改革。雇う方の都合で良くなっているだけ。それを働き方改革といっているだけ。」と鋭い視点で語り、続けて「映画では家族たちが自己責任にはまってしまうけど、『あなたの責任』と提示している問題が間違っているのに、イエスかノーで迫って。その枠組み自体がおかしいのに、イエスと言い続けて次第に落ちていってしまう。1人ではおかしいと言えないからこそ、連帯して主張する必要がある。」ということを感じ取ったという。

最後に今、この映画が日本で公開することについて、武田さん「作品性はもちろん、映画で描かれている理不尽さは、今の日本でも起きてるよなと思いながら観てた。これが、そのまま日本版として、こういう風に生きている人もいるわけで。だからこそ、どういう風に改善していくのか、模索する必要性があると感じた。」とコメント。町山さん「本作と、前作の『わたしは、ダニエル・ブレイク』は兄弟のような作品。両方に通じるのは、気がつくと、身近にいる優しくしたい人に、その権利と自由が奪われているということ。そのことを気づかせてくれる映画。この2本を周りの人に観て欲しい。まだ前作を観ていない人は、本作とあわせてぜひ観て頂きたいし、周りの人に勧めて欲しい。」と熱い思いを語り、イベントを締めくくった。

家族を想うとき

【武田砂鉄(たけだ さてつ)さん プロフィール】
ライター。1982年生まれ。東京都出身。大学卒業後、出版社で主に時事問題・ノンフィクション本の編集に携わり、2014年秋よりフリー。著書に『紋切型社会──言葉で固まる現代を解きほぐす』(朝日出版社、2015年、第25回Bunkamuraドゥマゴ文学賞受賞)がある。2016年、第9回(池田晶子記念)わたくし、つまりNobody賞を受賞。「文學界」「SPA!」「VERY」「暮しの手帖」などで連載を持ち、インタヴュー・書籍構成なども手がける。

【町山広美(まちやま ひろみ)さん プロフィール】
ADを経て、20歳で放送作家に。バラエティー番組を持ち場として、現在の担当番組は『有吉ゼミ』『マツコの知らない世界』『MUSIC STATION』ほか。『幸せ!ボンビーガール』ではナレーターも兼任。映画レビューも女性誌を中心に多数執筆。『In Red』の長期連載「レッド・ムービー、カモーン」では同時期に公開される2本の映画を同時に、『and GIRL』では「町山広美の女子力アップ映画館」と題したコラムを連載中。


イントロダクション
日本でも大ヒットを記録した『わたしは、ダニエル・ブレイク』を最後に映画界からの引退を表明していたケン・ローチ監督。名匠が引退宣言を撤回してまで描きたかったのは、グローバル経済が加速する中で変わっていく人々の働き方と、時代の波に翻弄される「現代の家族の姿」。
個人事業主とは名ばかりで、理不尽なシステムによる過酷な労働条件に振り回されながら、家族のために働き続ける父。そんな父を少しでも支えようと互いを思いやり懸命に生き抜く母と子供たち。日本でも日々取り上げられている労働問題と重なり、観る者は現代社会が失いつつある家族の美しくも力強い絆に、激しく胸を揺さぶられるだろう。

家族を想うとき

ストーリー
イギリス、ニューカッスルに住むある家族。父のリッキーはマイホーム購入の夢をかなえるために、フランチャイズの宅配ドライバーとして独立。母のアビーはパートタイムの介護福祉士として、時間外まで1日中働いている。家族を幸せにするはずの仕事が、家族との時間を奪っていき、高校生のセブと小学生の娘のライザ・ジェーンは寂しい想いを募らせてゆく。そんななか、リッキーがある事件に巻き込まれてしまう――。

作品タイトル:『家族を想うとき』
出演:クリス・ヒッチェンズ、デビー・ハニーウッド、リス・ストーン、ケイティ・プロクター
監督:ケン・ローチ
脚本:ポール・ラヴァティ
2019年/イギリス・フランス・ベルギー/英語/100分/アメリカンビスタ/カラー/5.1ch/原題:Sorry We Missed You/日本語字幕:石田泰子
提供:バップ、ロングライド
配給:ロングライド

公式サイト:longride.jp/kazoku/
コピーライト:(C) Sixteen SWMY Limited, Why Not Productions, Les Films du Fleuve, British Broadcasting Corporation, France 2 Cinema and The British Film Institute 2019

12/13(金)ヒューマントラストシネマ有楽町、新宿武蔵野館ほか全国順次公開

 


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