【レポート】『オフィサー・アンド・スパイ』黒沢清監督、ポランスキー監督にしか描けない権力の恐怖を絶賛!

オフィサー・アンド・スパイ

ロマン・ポランスキー監督最新作『オフィサー・アンド・スパイ』の公開(6月3日(金))に先駆け、5月19日(木)に黒沢清監督登壇のトークイベントが実施された。

アカデミー賞監督賞受賞『戦場のピアニスト』ロマン・ポランスキー監督の最新作は、歴史的冤罪事件“ドレフュス事件”の映画化。巨大権力と闘った男の不屈の信念と壮絶な逆転劇を描く歴史サスペンスだ。反ユダヤ感情が高まる19世紀末のフランス。ドイツに機密を漏洩したスパイ容疑で終身刑となったユダヤ人大尉ドレフュス。彼の無実を示す衝撃の証拠を発見した対敵情報活動を率いるピカール中佐が、スキャンダルを恐れ証拠の捏造や文書の改竄などあらゆる手で隠蔽をもくろむ国家権力に抗いながら真実と正義を追い求める姿を描く。

黒沢清監督登壇 トークイベント
■日時:5月19日(木)20:45~21:15
■場所:ユーロライブ
■登壇:黒沢清(映画監督) 
■司会:松崎健夫(映画評論家)

上映後の熱気に包まれた会場。観客と共に作品を鑑賞した黒沢監督は、大きな拍手に迎えられ登壇。トークは、監督が『スパイの妻』でベネチア国際映画祭銀獅子賞を受賞した前年に、本作が同賞を受賞していたことから始まり、まずポランスキー監督について聞かれると、「長いキャリアの中で、大作からお金のかかっていない作品、サスペンスから歴史物まで、自由自在に撮っている。そういう監督ってなかなかいない。」と語る。ポランスキー監督作品との出会いについては、「『ローズマリーの赤ちゃん』。当時大ヒットしていたから観た。怪奇映画は好きだから、その流れで『吸血鬼』も観にいった。監督作品では『フランティック』が一番好き。(自身が教壇に立つ)東京芸大の授業でも必ず取り上げ、何度も分析した。」と振り返る。

そこから話題は本作の感想について。黒沢監督は「ある真実を貫くために、権力システムの恐ろしさとある意味執拗な“面倒くささ”が描かれている。後半、すごいなと思うのがこれだけ真実を暴くのに苦労したピカール自身がその権力システムの中に取り込まれているところ。」と語り、「物語の中で真実というのはとても単純なことなのに、それを証明するために、非常に面倒なことを繰り返して、なんとかたどり着いても、実は権力に埋もれて何も解決していない。」と、独自の目線で作品に隠された深いテーマを語る。

オフィサー・アンド・スパイ

松崎は「真実に興味があるのであれば、ドレフュスの視点になる。でも、ピカールの視点にしているのが作品として面白いところですよね。」と話すと、黒沢監督は「ドレフュスの視点であれば、もう少し何か感情的なこととか、真実を強く訴える部分が全面に出てくると思う。でも、物語をピカールの視点で描く時点でそこに関心はない。ピカールはこの事件に義務のようにとりつかれて、押し通していく。ドレフュスに対する同情や感情的な部分は描写されないし、関心もない。それがこの映画の面白いところ。ドレフュス事件を客観的に、その特異性と、巻き込まれる人々を描いている。すごくかわいそうな犠牲者の話としては描きたくないんだなと思った。」と鋭い視点でピカールという男を読み解きポランスキーの意図を分析する。

そして話題はポランスキー監督が描く主人公について。黒沢監督は「主人公の行動が描き方によっては感情移入できるけど、監督が主人公を描く視点は冷めているところがある。それが彼の物語に対する姿勢なんでしょうね。」と分析する。さらにそんな世界観を生み出すポランスキーの画づくりについて、松崎は「常に張り詰めた感じがする画面作りで、緊張するところがある。」と語ると、黒沢監督は「この映画はピカールがいちいち歩いてドアをガチャッと開ける。そのさきに嫌な手続き=システムが一つある。いちいち歩いて行ってドア開ける描写の積み重ね。」と話し、「その向こうに何が?何があるのか…?。何気ない描写なのに、気づいたら観客が惹きつけられるように描いている。ポランスキーはそこが本当にうまい」と作り手ならではの目線で語る。

オフィサー・アンド・スパイ

それが意識して描いた演出なのかとズバり尋ねられると、黒沢監督は「そうしたシーンを取り入れるのは本当に難しい。何か起こるんじゃないかと、ドアに向かってずっと歩いていく間が怖いんじゃないかな。でも、編集でつないでみると、その部分は長いと思って真っ先にカットする対象になる。でも、何が起こるんだろうかと思うその間が実はとても良くて。ただ、そうしたシーンは編集でつかうのには結構勇気がいる。この映画でも冒頭をあんなに長く見せるのはすごい、そこで聴かせる足音が後半で別の意味を持って権力の象徴として聴こえてくるように、後で効いてくる」と自身の映画作りとも重ねながらコメント。

最後にこの映画について、「一見は、紙をつぎはぎしたりして、証拠を見つける古い話だけど、それをインターネットやスマホに置き換えれば全部現代になる。様々なシステムに絡め取られていて、なんでもない簡単な真実を公表することがどれだけ難しいか。一度決められた事実を覆すのがいかに難しいか。本当に現代に通じる話。」と語り、イベントが締めくくられた。


ストーリー
1894年、フランス。ユダヤ系の陸軍大尉ドレフュスが、ドイツに軍事機密を流したスパイ容疑で終身刑を宣告される。ところが対敵情報活動を率いるピカール中佐は、ドレフュスの無実を示す衝撃的な証拠を発見。上官に対処を迫るが、国家的なスキャンダルを恐れ、隠蔽をもくろむ上層部に左遷を命じられてしまう。全て失っても尚、ドレフュスの再審を願うピカールは己の信念に従い、作家のゾラらに支援を求める。しかし、行く手には腐敗した権力や反ユダヤ勢力との過酷な闘いが待ち受けていた……。

作品タイトル:『オフィサー・アンド・スパイ』
出演:ジャン・デュジャルダン、ルイ・ガレル、エマニュエル・セニエ、グレゴリー・ガドゥボワ、メルヴィル・プポー、マチュー・アマルリック他
監督:ロマン・ポランスキー
脚本:ロバート・ハリス、ロマン・ポランスキー
原作:ロバート・ハリス「An Officer and a Spy」
2019年/フランス・イタリア/仏語/131分/4K 1.85ビスタ/カラー/5.1ch/原題:J’accuse/日本語字幕:丸山垂穂 字幕監修:内田樹/映倫区分:G
提供:アスミック・エース、ニューセレクト、ロングライド
配給:ロングライド

公式サイト:https://longride.jp/officer-spy/
公式Twitter:@officer_and_spy
コピーライト:(C) 2019-LÉGENDAIRE-R.P.PRODUCTIONS-GAUMONT-FRANCE2CINÉMA-FRANCE3CINÉMA-ELISEO CINÉMA-RAICINÉMA

6月3日(金)TOHOシネマズ シャンテほか全国公開

関連記事:
『オフィサー・アンド・スパイ』フランスの名優が集結!権力vs正義の闘いを彩る敵キャラ新場面写真6点一挙解禁
『オフィサー・アンド・スパイ』無実の将校がスパイにされた歴史的瞬間を切り取った本編映像が解禁!
『オフィサー・アンド・スパイ』本予告解禁!歴史を変えた逆転劇の全貌が明らかに…ナレーションは松平定知さん
『オフィサー・アンド・スパイ』新場面写真一挙解禁&内田樹さんコメント解禁!大逆転の救世主となった作家・ゾラとは?
歴史を変えた逆転劇『オフィサー・アンド・スパイ』6月3日(金)日本公開決定! ―ロマン・ポランスキー監督最新作

↑上に戻る