河瀨直美監督の最新作『たしかにあった幻』来年2月公開へ ロカルノ国際映画祭への出品も決定

河瀨直美監督の最新作『たしかにあった幻』が、8月6日より開催される第78回ロカルノ国際映画祭のインターナショナル・コンペティション部門にクロージング作品として正式招待されることが決定。また、2026年2月に全国公開されることが明らかになった。

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本作は、小児臓器移植実施施設を舞台に、命のともしびを照らす「愛」の物語。フランスからやってきたレシピエント移植コーディネーター・コリーが、脳死ドナーの家族や臓器提供を待つ少年少女とその家族と関わりながら、命の尊さと向き合う。同時に、突然失踪した恋人の行方を追うコリーの姿を通じて、愛と喪失、希望を描く。

これまで『あん』(2015)ではハンセン病を抱える女性、『光』(2017)では視力を失っていく男性、『朝が来る』(2020)では特別養子縁組の夫婦を取り上げ、社会的偏見や喪失の中で、他者との関係性を通して救われる「愛のかたち」を描いてきた河瀨監督。本作でも、深い人間ドラマを通じて命と愛の意味を問いかける。

主人公・コリーを演じるのは、ポール・トーマス・アンダーソン監督『ファントム・スレッド』(2017)などで知られるヴィッキー・クリープス。コリーの恋人であり、突然失踪する迅を演じるのは寛一郎。

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撮影期間は2024年6月から11月。兵庫、大阪、奈良、岐阜、屋久島、パリとロケーションを転々としながら実施された。小児臓器移植に携わる実際の医療関係者たちが、現在の日本が抱える臓器移植の問題点をディスカッションするシーンや、移植手術シーンなどはドキュメントとして撮影され、それをドラマの中に巧みに取り込むことによって物語にリアリティと臨場感を持たせている。

河瀨監督は、長編第二作『火垂』(2000)で第53回ロカルノ国際映画祭国際批評家連盟賞を受賞、翌年の第54回(2001)には『きゃからばあ』がコンペティション部門に招待された。さらに、第65回(2012)では河瀨監督のパーソナル・ドキュメンタリー5作品(『塵』『垂乳女』『きゃからばあ』『かたつもり』『につつまれて』)がオマージュ上映され、河瀨監督がプロデュースしたドキュメンタリー映画『祈-Inori-』が新鋭監督部門グランプリを受賞している。

なお今回、河瀨監督、クリープス、寛一郎から到着したコメントは以下の通り。

監督・脚本:河瀨直美 コメント

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(C)Leslie Kee

この度、映画を本当に愛してやまないロカルノ国際映画祭の選考委員の皆様に本年度のコンペ部門のクロージングフィルムに選んでいただきましたことを大変光栄に思います。
思い返せば、2000年公開の「火垂」がロカルノで受賞したことは私にとってとても美しい忘れられない想い出です。
25年の月日を経て、またロカルノに戻って来れたことに感謝しています。

新作に寄せた
ロカルノ映画祭のアーティスティックディレクターのGiona A.Nazzaroさんからのメッセージを以下に記します。

「水のように、音を立てずに深く掘り下げ
沈黙を恐れず、耳を傾ける映画を作ってくれてありがとう」

ヴィッキー・クリープス コメント

When I make a movie, I follow an invisible thread – one woven into the larger tapestry of dreams. This particular thread led me deep into the ancient forests of Yakushima and back into the gentle heart of childhood. I walked the delicate line between ghosts and reality, drawn by the mystery of love.

映画を作るとき、私は目に見えない一本の糸をたどります――夢という大きな織物に織り込まれていく糸です。
今回、糸は、私を屋久島の太古の森の奥深くへと導き、そして幼い頃のやさしい心へと連れ戻してくれました。
幽霊と現実のあいだの繊細な境界線を歩きながら、私は愛という謎に引き寄せられていきました。

寛一郎 コメント

諸行無常。
何かこの作品に込められたテーマのような気がしています。
この作品は自分にとって挑戦でした。
言語、さまざまな自然での撮影、新たな人との出会いで、沢山の学びと、この現場でしか体験できない経験をさせてもらいました。
そんな作品がこうしてロカルノ国際映画祭に招待していただいた事を光栄に思います。
関わった沢山の人たちの努力が報われる気がします。
そしてこの作品が世界の人に見て頂けることに喜びを感じています。


ストーリー
国際人材交流事業の一環で日本へやってきたフランス人女性コリー(ヴィッキー・クリープス)は、臓器の移植を必要とする人と関わるレシピエント移植コーディネーターとして、日本で数少ない小児心臓移植実施施設の病院でサポートスタッフとして働き始める。移植を待つ重症の小児を多く受け持つその病院では、限られた人員で必死に日々の業務をこなし、切実な状況にある患者やその家族と向き合っていた。コリーはそうした厳しい環境の中でも、患者家族をはじめ、従事する医師や看護師、コーディネーター、保育士や院内学級の先生らと触れ合ううちに、移植医療をめぐる人々の輪の暖かさを再認識していく。しかし、そんな彼女の心を支えてくれていた屋久島で出逢った恋人・迅(寛一郎)が、ある日なんの前触れもなく同居していた家から消えてしまう…

『たしかにあった幻』
出演:ヴィッキー・クリープス 寛一郎
監督・脚本:河瀨直美
音楽:中野公揮
制作:CINEFRANCE STUDIOS 組画
共同制作:カズモ
配給:ハピネットファントム・スタジオ
(C) CINÉFRANCE STUDIOS – KUMIE INC – TARANTULA – VIKTORIA PRODUCTIONS – PIO&CO – PROD LAB – MARIGNAN FILMS – 2025
https://happinet-phantom.com/maboroshi-movie/

2026年2月全国公開

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