『小屋番 八ヶ岳に生きる 劇場版』の完成披露試写会が開催され、上映後に本作に出演している山岳写真家の菊池哲男、ナレーションを務めた俳優の一双麻希、深澤慎也監督、永山由紀子プロデューサーが登壇した。

本作は、今年3月に開催された「TBSドキュメンタリー映画祭2025」で上映され、大きな反響を呼んだ「小屋番 KOYABAN〜八ヶ岳に生きる〜」の劇場版。
映画祭版から追加撮影、再編集を施したものが今回の劇場版となったわけだが、その違いについて質問された永山プロデューサーは「劇場版では、赤岳鉱泉の水場の映像など、深澤監督自身が撮影した珠玉の映像を随所に使いました」と説明する。

深澤監督は、音声スタッフとして数多くのドラマや報道番組などにかかわってきた経歴を持つ。「これまで名だたる監督の作品に携わらせていただいてきましたが、自分はそういう場を与えていただいた側であり、いち技術スタッフの僕を永山さんが見つけてくれなかったら、ここまで来られなかった。菊池さんや永山さんが喜んでくれたらいいな、信じてくれた人たちが喜んでくれたらいいな、という思いでやってきました」と思いの丈を語る。

長年にわたって八ヶ岳を撮り続けてきた菊池は、単なる出演者にとどまらず、撮影クルーに適切な撮影タイミングを指導するアドバイザーとしても重要な役割を果たした。菊地は「天気が良さそうな日に、一緒に権現岳に登って。夕景を狙いましょう、とお話ししたりとか。赤岳鉱泉では撮影チームの皆さんと山の上に登ってチームを分けて撮影したのですが、それも天気を見て。『この日に行かないと夏の稜線はなかなか撮れないから、絶対行った方がいいよ』と急きょ登ることにしたり。それでなかなかいい映像が撮れたので、そういうことは経験上、お役に立てたのかなと思っています」と振り返る。

その言葉を聞いた深澤監督も「菊池さんなくして映画は成立しなかった」と全幅の信頼を寄せる。「雲が多くて諦めようかと思った時も『いや、もう少し粘れば』と助言してくださったり。撮影の構図などにもアドバイスをいただきました」と話すと、永山プロデューサーも「そもそも『八ヶ岳は“コヤガタケ”と呼ばれているんだよ』と教えてくださったのが菊池さんでしたから。企画書を書く時もそこから発想が出てきたので、根幹に携わっていらっしゃるんです」とその役割の大きさを語った。
本編のナレーションを務め、自身も熱心な登山愛好家として知られる一双は、「元々は『Tokyo Climb』という動画制作チームで、深澤監督が撮っていた八ヶ岳のPVのナレーション担当として参加させていただいていました。そこからある日『なんかすごいことになりそうだ』という連絡があって。ドキュメンタリーとしての制作が始まり、そこから『もしかしたら映画になるかも』とお聞きして。しかも私が一番よく行く、思い入れのある八ヶ岳という場所で。そのナレーションをできるというのは本当に光栄だなと思いましたし、責任も感じました」と語る。

さらに本作では、もうひとりのナレーターとして東野幸治が参加している。そんな彼の起用理由について深澤監督は「今回の作品は、本気で山登りが好きだという方にやってもらいたいなというのがありました。それが映像や音楽と混ざった時に、最後には言葉ではできないパワーになるんじゃないかと思ったんです」と説明。
もともとは、東野が品川庄司の庄司智春、天津の木村卓寛、ディレクター椎葉宏治らと結成した「東野登山隊」の動画を見たことがきっかけだったといい、「僕でも登れないようなところを(目指して)。東野さんたちは練習をすごくされているんです。その訓練している動画がものすごく自分に響いて。ぜひとも東野さんにお願いしたいなと思いました」とオファーに至る経緯を明かした。
そんなイベントもいよいよ終盤。最後のコメントを求められた菊地は「主演は僕だと勘違いされているみたいなんですけど、小屋番さんが主役ですから。八ヶ岳のいろんな小屋番さんたちの生き様をぜひ楽しんでいただければ」とコメント。
さらに一双が「私自身、山と出会って6年ぐらいになりますが、本当に山と出会ってから生き方や人生観が変わって。自分のペースで生きられるようになったなという実感があります。そのパワーをこの映画が映し出してくれていて、不思議な山の力を体感できるような作品になっているので。ぜひ一人でも多くの方に広まってほしいなと思います」と続けると、深澤監督も「今回は劇場も増えるので、SNSなどを使って広めていただけたら。そして最後に一つだけ。今日は『Tokyo Climb』のメンバーが来ているんですけど、彼は30キロくらいの荷物をいつも持ってくれたスタッフで。今日が誕生日なので、拍手をお願いします」と呼びかけると、会場には祝福の拍手の音が鳴り響いた。
そして最後に永山プロデューサーが、「この映画は山が好きな人のためだけでなく、現代社会で疲れた人たちにも観ていただきたい映画。小屋番の人たちから癒やしをもらったり、何かのきっかけをもらえるような映画だと思うので。そしたらみんな疲れを忘れて、いい気分になっていただけるのではないかなと思っております」と作品に込めた想いを語り、イベントを締めくくった。

『小屋番 八ヶ岳に生きる 劇場版』
出演:菊池哲男(山岳写真家)
ナレーション:東野幸治 一双麻希
監督・撮影・MA:深澤慎也(TBS ACT)
プロデューサー:永山由紀子
エグゼクティブプロデューサー:津村有紀
総合プロデューサー:須永麻由 小池 博
協力プロデューサー:石山成人 塩沢葉子 和田圭介
進行プロデューサー:鈴木秀明 尾山優恵
2026年/日本/85分/5.1ch/16:9
製作:TBS
配給:KeyHolder Pictures
(C)TBS
koyaban.com
1月9日(金)より、ヒューマントラストシネマ有楽町ほか全国順次公開