
物語の舞台は、粉じん公害が深刻化するタイ・バンコク。最愛の妻・ナット(ダビカ・ホーン)を呼吸器疾患で亡くしたマーチ(ウィサルット・ヒンマラット)は悲嘆に暮れる日々を送っていた。ある日、ナットの魂は掃除機に宿るかたちで舞い戻り、ふたたび愛を確かめ合う二人。その頃、マーチの家族が経営する工場では、死亡した従業員の霊が機械に取り憑き、操業停止に追い込まれていた。霊に悩まされる家族や社会から拒絶されたナットは、工場の除霊に協力することで、夫への真実の愛そして自らの存在を“役に立つ幽霊”だと証明しようとするが……。
タイでは誰もが知る怪談「メー・ナーク・プラカノーン」(死後も現世にとどまり、夫と禁断の愛を深めていった女性“メー・ナーク”にまつわる物語)に着想を得たという本作。亡き妻が掃除機に宿って夫の元へ戻ってくるという奇想天外な設定を起点にしながら、記憶と忘却、個人と社会、愛と有用性といったテーマへと静かに深度を増していく。
映像は、最愛の妻・ナットを失ったショックで体調を崩していたマーチが、掃除機に憑依したナットの献身的な看病によって回復、ついに“掃除機の妻”とともに自宅へ戻る姿から始まる。だが、幸せな時間は束の間、「人間は幽霊と一緒になれないわ」―愛し合うふたりを待ち受けていたのは、ナットを“怨霊“として成仏させるために集まった親戚と僧侶の一団だった。
「お義母さん、叔母さん、伯父さん、分かってください。私は怨霊じゃありません」「ただ、マーチと一緒にいたいだけなんです」必死に訴えるナット。「この花飾りを受け取ってください」と真摯な言葉を添えながら、掃除機のノズルを器用に使い、タイで年長者や僧侶への敬意を表す花輪を差し出そうとするも、その“手”(ノズル)は容赦なく振り払われてしまう。「お坊様、どうして私にこんなことを?」と怯えた声を上げながら耐えるナット(掃除機)の姿が捉えられている。
映画『ユースフル・ゴースト』は7月10日より公開。



