【レポート】『セイント・フランシス』主演&脚本のケリー・オサリヴァンと作家・山内マリコが海を越えて語り合う

セイント・フランシス

『セイント・フランシス』(8月19日(金)公開)の公開を記念して開催されたトークイベントに、作家の山内マリコが登壇し、本作の主演&脚本を務めるケリー・オサリヴァンも海を越えてオンライン登壇した。

『セイント・フランシス』特別先行試写会トークイベント 概要

日時:8月4日(木) 20:45~21:15(※上映後)
登壇者(敬称略):山内マリコ<リアル登壇>、ケリー・オサリヴァン<オンライン登壇>
場所:ユーロライブ

これまでタブー視されることの多かった、生理、避妊、中絶―女性の身体にのしかかる様々な負担や精神的プレッシャー、セクシャルマイノリティーの人々が直面する社会的な差別といったリアルをユーモアと軽やかさをもって見事なバランスで描き、グレタ・ガーウィグに続く才能と絶賛された本作。アメリカで開催された世界最大のエンタメカンファレンスイベント「SXSWフィルムフェスティバル2019」では観客賞と審査員特別賞を受賞している。

「主人公との共通点は本当にたくさんある」というケリー・オサリヴァン。本作の主人公ブリジットと同じく「実際にナニーを経験したということ、そして中絶を経験した」というこれまでの人生における2つの大きな出来事について、彼女は映画にするという特性上、ある程度は誇張しつつも「非常にリアルな真実味を持ってこの作品に取り組むことができた」と明かす。

<アメリカの名門校(ノースウエスタン大学)のクリエイティブ・ライティングプログラムに1年だけ通っていた>というブリジットの“秀才”キャラクター設定について言及した山内。「そこで彼女はネクスト<シルヴィア・プラス(アメリカの女流詩人)>と同級生から言われていたという設定ですが、でもこの夏彼女はずっとハリーポッターを読んでいるっていう設定が、すごくギャップがあって面白いなと思いました」と言及。

そのことについてケリーは「(ハリー・ポッターは)実は当時、本作の脚本を書きながら私が読んでいたんです。だから登場するのがハリー・ポッターだったんです(笑)」と明かしつつ、「ブリジットにとっては、子供の感情に戻るというひと夏だった、ということをある意味示していますね」「確かにブリジットは、シルヴィア・プラスであったり、ある意味で詩といった<高尚>と言われるものを読んでいたけれど、でもそういったものが、劣るのかというともちろんそうではなく、同様に深みのあるものだと思います」「ですからこの夏は、ブリジットにとって社会が、ある意味レッテルを貼るというか、これは高尚なものだとか、これが成功だとか決めつけたものから少し外れて考えるというための夏だったのかなと」と語った。

セイント・フランシス

山内は、ブリジットの<親友>が電話でしか登場しないことにも着目。「本作は、ブリジットとフランシスの物語ですが、この2人を結びつける親友のダナが、スクリーンには一度も登場しない。ブリジットの親友ですよね?ダナが登場しないことに何か意味があるのかな?と思いました」と伝えた。

それに対して、ケリーは「ダナを出さなかったというのは、ブリジットがいかに孤立しているのかというのを見せたかったため」だと明かした。「だからブリジットが中絶をしたということは、ダナを含め誰にも相談はしていないです。友達の多くが、子育てや仕事など彼女と別の次元にいて忙しいわけですよね」とリアルな現実を描写し、「最初はダナもブリジットをサポートしてナニーになるように紹介はしてはくれるものの、その後は自分の子育てて忙しくて構えないのです。だから、ブリジットは頼れる人が誰もいない」、しかし、だからこそ「彼女がナニーとして関わることになるフランシスの家族に深く結びつくことができる、とも言えます」とその意図を語った。

山内はケリーに対して「ブリジットが中学生までカトリックだったということと、でも彼女が当たり前のように中絶を選択するということについて、そこにこめた想いなどを効かせてください」と、劇中登場する中絶シーンについても質問。

ケリーは「私は幼稚園から14歳くらいまでアイルランド系のカトリックの学校に通っていました。ただ、私は聖母マリアの処女受胎を信じていたかというと、そういうわけではないです」「ですからこの作品を通してずっとカトリックというものが影のようについて回って存在してるんですよね」「カトリックではもちろん中絶は罪と言われ、大罪なわけですよね。でもブリジットはそういう背景を持っていても、今はもう信じていない」とその背景を語った。

反して、ナニー先の家族であるマヤは「カトリックを信じて非常に愛着を持っている」、そのため「この2人の関係を通じて、その宗教観というものが明らかになり、ブリジットは大人になるにつれ中絶は罪という気持ちを持ちながらも現実的な人生の選択というものを考え、あと知的レベルではそれは罪ではないと分かっていても、どこか心の奥底にある自分と向き合わなければという部分があった」と思い返した。

最後に、日本の観客に向けて「来てくださってありがとう!今日のディスカッションを楽しみました」とメッセージを送ったケリー。「心の中で何度もスタンディングオベーションを送りました」「女子のリアルがこんなにも自然に詰まった映画は、ちょっと他にない」と絶賛の声を送る山内と共に、その見どころを本音で語り合った貴重な機会となった。

作家・山内マリコが本作へ寄せたコメント(敬称略)

Bravaaaaa!!! 心の中で何度もスタンディングオベーションを送りました。
女子のリアルがこんなにも自然に詰まった映画は、ちょっと他にない。
月に一度の生理、産む性であることの憂鬱、中絶。
それをこんなふうに描けるなんて、魔法だし、発明だ。
私たちを抱きしめてくれる映画。傑作。

<山内マリコ(やまうち・まりこ)プロフィール>
作家。1980年富山県生まれ。大阪芸術大学映像学科卒。2008年「女による女のためのR-18文学賞」読者賞を受賞し、2012年「ここは退屈迎えに来て」でデビュー。これまでに同作のほか、「アズミ・ハルコは行方不明」「あのこは貴族」が映画化されている。主な著書に「選んだ孤独はよい孤独」、アートエッセイ「山内マリコの美術館は一人で行く派展」など。新刊小説「一心同体だった」(光文社)が絶賛発売中。

ストーリー
うだつがあがらない日々に憂鬱感を抱えながら、レストランの給仕として働くブリジット(ケリー・オサリヴァン)、34歳、独身。親友は結婚をして今では子どもの話に夢中。それに対して大学も1年で中退し、レストランの給仕として働くブリジットは夏のナニー(子守り)の短期仕事を得るのに必死だ。自分では一生懸命生きているつもりだが、ことあるごとに周囲からは歳相応の生活ができていない自分に向けられる同情的な視線が刺さる。そんなうだつのあがらない日々を過ごすブリジットの人生に、ナニー先の6歳の少女フランシス(ラモーナ・エディス・ウィリアムズ)や彼女の両親であるレズビアンカップルとの出会いにより、少しずつ変化の光が差してくる――。

作品タイトル:『セイント・フランシス』
出演:ケリー・オサリヴァン、ラモナ・エディス・ウィリアムズ、チャーリン・アルヴァレス、マックス・リプシッツ、リリー・モジェク
監督:アレックス・トンプソン
脚本:ケリー・オサリヴァン
2019年/アメリカ映画/英語/101分/スコープサイズ/5.1chデジタル/カラー
字幕翻訳:山田龍
配給:ハーク 配給協力:FLICKK

公式サイト:www.hark3.com/frances/
公式Twitter:@frances_0819
公式Instagram:@saintfrancesmovie_jp
コピーライト:(C) 2019 SAINT FRANCES LLC ALL RIGHTS RESERVED

8月19日(金)ヒューマントラストシネマ有楽町、新宿武蔵野館、シネクイント
ほか全国ロードショー!

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