【レポート】『わたしは光をにぎっている』青山学院大学にて中川龍太郎監督らによる「今を未来へ繋ぐ」ための特別講義を実施

わたしは光をにぎっている

『四月の永い夢』(17)で第39回モスクワ国際映画祭・国際映画批評家連盟賞を受賞した新鋭・中川龍太郎監督の最新作『わたしは光をにぎっている』が11月15日(金)より全国公開される。

監督は、デビュー作からこれまで海外の映画祭で数々の賞を受賞し、前作『四月の永い夢』がモスクワ国際映画祭で2つの賞を受賞した中川龍太郎。澪を演じるのは、「この世界の片隅に」の情感あふれる演技で存在感を放った松本穂香。出来上がった本編を観て「自分が出ている作品なのに、こんな風に泣いたのは初めてのことでした。この映画に出会えてよかったです。」と語った。分身のような役で、風景に溶け込む透明感溢れる松本の姿は、岩井俊二監督の名作『四月物語』(98)のヒロインを演じた女優松たか子を彷彿とさせるという絶賛の声がマスコミから寄せられている。

共演は渡辺大知、徳永えり、吉村界人、忍成修吾ら若手実力派と、光石研、樫山文枝ら日本映画のオーソリティーたち。主題歌は、伸びやかな歌声が心に波紋を広げるカネコアヤノの「光の方へ」。監督が「翔べない時代の魔女の宅急便」と語る本作では、特別な才能があるわけではないけれど、都会の中で居場所を見つけ、現代を生きる若者の姿を丁寧に描いている。

この度、そんな本作のテーマをもとに監督登壇による特別講義が青山学院大学にて実施された。

映画『わたしは光をにぎっている』公開記念特別講義

◆日程:11月11日(月)
◆時間:18:30~
◆場所:青山学院大学・17号館3階・17310教室(東京都渋谷区渋谷4丁目4−25)
◆登壇者(敬称略):中川龍太郎監督、平松雄介(小杉湯店主)、塩谷歩波(小杉湯番頭)

学生を対象にした本講義。失われてゆく銭湯や商店街といった街を、映画に残すことで未来へ繋げるというテーマで描かれた本作にちなみ、中川龍太郎監督平松雄介(小杉湯店主)、塩谷歩波(小杉湯番頭)が登壇した。

なくなっていく場所を描いた本作の原点について聞かれると、監督は「前作まで、大学時代の自殺した自分の親友をテーマに描いてきたが、その彼との思い出も一緒に過ごした場所自体に詰まっていた。場所がなくなるというのは人とのつながりもなくなること。」と答えた。

銭湯の店主として場所を守り続ける平松さんは「映画を観て、自分自身が銭湯を経営している意味がわかった気がする。銭湯の経営は過去と未来ではなく、今の積み重ねが銭湯なんだなと思った。この映画はまさに今を撮っていると思いました。」と感想を述べた。監督「銭湯が減っていっていることは間違いない。今現在進行形で起きているということを撮らないといけないという気持ちで撮影した。」と気持ちを語った。

監督はさらに熱い想いの源泉を語った。「そもそも人間よりも場所の寿命のほうが長かったけれど、今はそうではない。例えば、おじいちゃんといった銭湯が潰れてしまうと、自分の息子とおじいちゃんがつながるということがなくなってしまう。場所があって、僕らがいる。僕らがあって、場所があるのではない。ということですね。」

それに対して、平松さんは「86年続く、高円寺で変わらない場所の中で僕は生きていて、大学生ぐらいの若い人たちが今すごく集まっている。まさにそういうことなのだなと。」と合わせて答えた。監督はさらに「単なるノスタルジーではなくて、古い場所の中で新しいこともやっていかないと。小杉湯の塩谷さんのような若い人がやっていかないとなくなってしまう。」と続けた。

銭湯で番頭として働く塩谷さんは、自身が銭湯に辿り着いた経緯を語った。「大学院で建築を勉強していて、大学出てから教会の設計をやっていた。でも、体を壊してしまって。その時に銭湯で他の世代の人たちに会って、おばあちゃんと天気の話をしたりするだけで涙が出てきた。そんな銭湯の魅力を発信したいという気持ちで銭湯の絵を描いてたら、平松さんにスカウトされたんです。」この話に監督は、「わたしも辛い時期があって、銭湯にいくとおじいさんとかが話しかけてくれる。仕事以外の場で誰かと話すということが人生の幸福度を上げる。そういうことが起きるのが銭湯なんですよ!」と強く述べた。

小杉湯店主・平松さん「小杉湯はこの先50年後100年後も続けるといっているんですけど、今、私は“なくしたくない”んじゃなくて、“なくならない”と思っているんですよね。」と述べた。これについて塩谷さん「人って未来と過去への信じる気持ちはとても強いけど、今への視点で全然ないんですよね。再開発もそうですけど、今あるものを大事にしないとつながらない。わたしはそのために模索している。過去から未来へバトンを渡すようなことを。」と語った。「管理人のような気持ちですね。その場所の守り人のような。」と平松さんも笑顔で述べた。

「100年以上変わらないのって銭湯と寺ぐらいなんですよね。でも銭湯の中身は時代に合わせて変えるんです。タイルとか全て。20年ごとに。」と話す塩谷さん。「だから今潰れている銭湯は、最近決まったわけではなく、20年前に終わらせることに決めていて、それに向き合ってきたんですよね。」と、平松さんも述べた。まさに本作で描かれていた“終わらせること”への向き合いが銭湯で実際に行われていたのだ。

大学生からのQ&A

Q.現代社会では、自分の価値を出さないといけないことが多いが、この映画の中では弱さを出すことを描いているような気持ちがしました。どうでしょうか。

塩谷さんは「銭湯は弱さを受け入れる場所。裸で同じお風呂に入るので、何も関係ない。お互いが弱さを許し合えることで成り立つもの。」答えた。監督も「昔一人旅が好きで、大阪でいった風呂屋で、隣の怖いお兄さんが、何ももっていなかった貧乏なわたしにシャンプーを貸してくれた。そういうところ。」と答え、平松さんも「「わたしは銭湯に救われたので何かやらせてください」と言われたことが経営の中で驚きだった。塩谷1人ではない。場所の力が人を許すことになっている。」とご自身の経験で答えた。

Q.おばあちゃんが主人公に渡す詩「わたしは光をにぎっている」はどこから?

監督は「山村暮鳥の詩です。キリスト教徒なんですけど、あらゆるものに神様が宿るという考えの人だった。本当はにぎっていないかもしれないという言葉も入っていて、そこには“なげやりになるかもしれない。でも諦めてはいけない。”という気持ちが入っている。」と、映画タイトルのアイデアソースを述べた。

その後、平松さんの「今、この場がまさに銭湯のようになっていると思う!ここで隣の人と一度感想を話あってみるのはどうでしょう?」という提案で、学生たちは本作の感想をそれぞれの経験をもとに熱く語り始めた。教室はまるで本作テーマを体現するように、そして銭湯の浴場であるかのように、年齢や肩書きも関係なく、同じ体験を共有しあう温かな雰囲気に包まれた。

最後にひとこと、「若い皆さんと今日この場で一緒に見れたことがとても嬉しい。周りの人にシェアしていください。辛辣な意見があったら会社のHPから直接にぼくに連絡をください!(笑)今日はありがとうございました。」と感謝の気持ちを述べイベントは終了した。

ストーリー
宮川澪、20歳。ふるさとを出て、働きだした。
友達ができた。好きな人ができた。その街も消える、もう間もなく。

なんとなく東京へ出てきたが、仕事も人付き合いもうまくいかない澪。ある時から古い銭湯を手伝い始め、昔ながらの商店街の人たちとも交流するようになり、少しずつ都会の暮らしにも喜びを見出していく。だが、やっと見つけた居場所が、もうすぐなくなってしまうと知った澪は、「しゃんと終わらせる」決意をする──。「閉店します」の貼り紙、一夜で壊される建物、路地から消える子どもたちの声──今、日本は発展や再開発の名のもとに、大きく変わろうとしている。<失われてゆくもの>を、感謝を込めて丁寧に送り出すことで、前へ進もうとする澪は、現代に生きる私たちに大切なものが終わる時にどう向き合うかを、まっすぐな瞳で伝えてくれる。

作品タイトル:『わたしは光をにぎっている』
出演:松本穂香 渡辺大知 徳永えり 吉村界人 忍成修吾/光石研/樫山文枝
脚本・監督:中川龍太郎 『四月の永い夢』
脚本:末木はるみ 佐近圭太郎 脚本協力:石井将 角屋拓海
主題歌:カネコアヤノ「光の方へ」
チーフプロデューサー:和田丈嗣 プロデューサー:藤村駿 木ノ内輝
製作:WIT STUDIO 制作:Tokyo New Cinema
配給:ファントム・フィルム

公式サイト:phantom-film.com/watashi_hikari/
公式Twitter:@watahika_movie
コピーライト:(C)2019 WIT STUDIO / Tokyo New Cinema

11/15(金)新宿武蔵野館ほか全国ロードショー

 


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