6月26日より台湾・台北市で開催中の第28回台北映画祭 「星光首映」部門において、映画『シンシン アンド ザ マウス/SINSIN AND THE MOUSE』が7月4日に公式上映された。W主演を務めたツェン・ジンホアがアンバサダーを務める本映画祭では、岸井ゆきのとツェン・ジンホア、藤原季節、真壁幸紀監督、阿部豪プロデューサーが登壇した。

原作は、吉本ばななの短編小説集で第58回谷崎潤一郎賞(中央公論新社主催)を受賞した「ミトンとふびん」に収められた一篇「SINSIN AND THE MOUSE」。最愛の母を失った主人公「ちづみ」が、旅先の台北で「シンシン」という男性に出逢い、喪失感の中で再生していく姿を描いた物語。金馬映画祭Film Project Promotion(FPP)部門優秀企画に選出され、日台合作で映画化を実現した。
撮影地、台北での初上映を前に行われた記者会見では、この日一番多くのメディアが待ち構え、会場は熱気に溢れていた。アットホームな雰囲気で歓迎を受けたキャストとスタッフ陣。

まず原作の短編をどのように長編映画として膨らませたのか、記者から問われた真壁監督は「小説の中では音について書かれている部分が多く、この音の部分を膨らませると映画になるんじゃないかなと思って作りました。シンシンのお母さんの曲も映画オリジナルで作りましたし、音、歌、声という部分で映画化していきました」と回答。

また、全編日本語での演技に初挑戦したジンホアが過酷な撮影裏を明かす場面もあり、「撮影までに、2ヶ月くらいしか準備期間がなかったんです。だから、もしかしたら、やり遂げられないんじゃないかという不安はありました。監督が台湾にいらっしゃった時に、すごくリラックスした雰囲気で、一緒にやってみようと、そういう気持ちにさせてくれました。最初は、日本語の50音から覚えていったのですが、時間がないから、もうとにかく口を動かして台詞を全部覚えて。監督は何度も一緒に練習に付き合ってくださった。そこはすごくありがたいなと思いました」と真壁監督に感謝を込めた。とくに、後半のバーでのシーンは日本語の長台詞が続き、真壁監督の「オッケー」がかかった瞬間に、思わず号泣してしまったそう。「日本のスタッフのみなさんも、僕を支えてくれて、一緒に完成させようという気持ちが非常に強かった。本当に、感謝しているし、僕にとっても大事な思い出になりました」と感慨深げに振り返った。

そんなジンホアの役作りを間近で見ていた岸井は「(ジンホアは)本当に真面目で誠実な方」と印象を明かし「初対面のシンシンに“ねずみみたい”と言われるのは、え?と思う部分がありますよね。でも、事実として“爪が小さいね”だとか“持ち上げられそうだね”って言う人には、 私も、ちづみも、たぶん出会ったことがなかったから、ちょっと弱っているちづみの心を変えていく、そういう言葉だったのかなと思います」と、ジンホアの人柄がキャラクターにそのまま投影されていたというエピソードについて触れた。

続いて、キャスティング理由について話が及ぶと真壁監督は「ジンホアさんは、気品の中にある種の狂気というか、ワイルドな一面を秘めていると感じました。岸井さんは、どんなシーンであっても本当に素晴らしくて、非常に魅力的な俳優さん。とても繊細な部分も表現しなければならない役どころだったので、岸井さんにお願いしました。藤原さんもどんなお芝居でも、いろんな表情を見せてくれる、引き出しの多い役者さんです」とそれぞれの魅力を語った。
岸井とジンホアは、劇中の設定からあえてクランクインまで顔を合わせることなく撮影に挑んだという。初めてジンホアと顔を合わせた時の印象を、岸井は「撮影に入る前のお祓いで初めてお会いしたのですが、その時の彼の印象が太陽のように本当にキラキラ輝いて見えました。それと同時に“この人と一緒ならこの映画は大丈夫だ”と思えるくらい、私が想像していたシンシンの輝きと似ていました」と語った。
言葉の壁がある中で、どのようにちづみとシンシンの関係性を築いたのか。ジンホアは「岸井さんは英語が話せるのですが、僕は英語があまり堪能ではなったので、いくつかの簡単な単語を使って彼女に返事をするのが精一杯でした。日本語の部分に関しては、自分が覚えた単語をいくつか使ってみたり。本当に断片的な語彙ばかりでしたが、なんとか彼女とコミュニケーションを取ろうと尽力しました。ただ、言葉以外の部分では、劇中と同じように視線の交わし合いや心の交流がたくさんありました。振り返ってみると、僕たち二人の現場での距離感は、まさに劇中のキャラクター二人が台北で出会った時の空気感とそっくりだったなと感じます」といい、リアルな二人の空気感が投影されているようだ。
ちづみの友人でバンドのボーカルという役所を演じた藤原は、台湾の撮影で印象に残っていることについて「撮影の時もものすごく暑かったんですけど、今日も、めちゃくちゃ暑いです!(笑)。ジンホアさんは撮影中、よくタンクトップ姿で街中を歩いていて、台湾の男の子のリアルな日常という感じで、見ていてとても爽快でした」と撮影裏エピソードを明かした。

阿部プロデューサーは「物語自体は非常にささやかですが、台湾の観客の皆さんがこの映画を観て、どのような反応を返してくださるのか、今からとても楽しみにしています。また、撮影中は雨が多く、狙いではない雨のシーンが、映画の中では重要なシーンになっています」と、美しい偶然の瞬間を楽しんでほしいとコメントした。

続いて公式上映後に行われたQ&Aでは、キャストの繊細な演技や音に関する演出など、熱心な質問が寄せられた。冒頭に岸井が流暢な中国語で観客に挨拶すると、満席の会場から拍手と歓声が入り混じるほど大盛り上がりだった。ジンホアは「今回の撮影は簡単ではなかったが、日本のスタッフの皆さんが台北映画祭まで来てくれてとても嬉しい」と喜びを語った。藤原も「台湾に来られて本当に嬉しい」と笑顔を見せた。真壁監督は、台北映画祭から招待を受けたことに感謝し、「台湾で正式公開された際にも、ぜひ劇場で作品を応援してほしいです」と呼びかけた。

本作の着想について、真壁監督は「吉本ばななの同名小説を原作としており、台北を二人の主人公が出会う重要な舞台にした。以前から台湾が好きだったこともあり、小説を読んだ時に強く惹かれました」と説明。
藤原季節は、日本と台湾の観客の反応の違いについて、「ジンホア演じるシンシンが登場すると、台湾の観客は特に熱い反応を見せる。一方で作品の重要な場面では、皆しっかり物語に入り込んでいる」と話した。また、「シンシン自身のルーツが明かされる場面や、ちづみが病気の母親のために爪を切るシーン、そして映画全体の細やかな音響設計には、思わず涙がこぼれました」と印象的な場面を挙げた。
ジンホアは出演を決めた理由について、「脚本の物語や世界観がとても好きだった。異なる文化や言語を持つ人々が、たった一日の中で繊細な感情を築いていくという設定は、これまで演じてきたスケールの大きな役柄とは異なり、短い時間の中で感情が移り変わる演技に挑戦したいと思いました」と語った。
さらに、「日本のスタッフと仕事をして一番感じたのは安心感でした。現場の段取りから撮影の流れまで非常によく計画されていて、ほぼ予定通りに進み、作業効率も高かった。その経験は自分にとって大切な思い出になりました」と振り返った。
岸井はジンホアとの共演について、「日本語は彼にとって大きな挑戦だったと思いますが、演技ではまったく支障を感じませんでした。ジンホアはシンシンそのもののようで、日本語が母語ではなくても、役が伝えたいことをきちんと受け取ることができ、とてもスムーズに共演できました」と語った。
キスシーンについて質問されると、岸井は「監督は一度OKを出していたが、ジンホア自身が『もっと良くできる』と感じ、もう一度撮り直したいと申し出た」ことを明かした。「作品に対して自分の考えを積極的に伝える姿勢に感心しました」と笑顔で語った。

観客から「ラストでは登場人物が家族を失った悲しみを完全には乗り越えていないように見える」という質問が寄せられると、真壁監督は「観客一人ひとりがそれぞれの解釈を持っていいと思います。私自身は、大切な人を失った悲しみはすぐに消えるものではないと考えています。だから、皆さんが感じ取った答えはどれも間違っていないはず」と答えた。
また別の観客から、作品で印象的だった環境音について質問されると、真壁監督は「実は特定の音を強調したわけではなく、むしろ音楽を使わないことを意識し、映画をより日常に近づけたかった。そのため、風の音や街の音、生活音そのものが物語の一部になっています」と説明した。
劇中の二人の関係について、ジンホアは「ちづみは母を亡くしたばかりで、シンシンもまた心に消えない悲しみを抱えている。異なる文化の中で出会った二人が急速に惹かれ合うように見えても、役の心情としてはとても自然な流れだと思う」と語った。一方、「進展が早すぎると思わなかったか」と尋ねられた岸井は、「シンシンはちづみの友人の友人というつながりもあり、だからこそ心を開くことができたのだと思います。現実だったら、知らない街で同じ状況になっても、私はきっと無理ですね(笑)」とユーモアを交えて答え、会場を和ませた。

『シンシン アンド ザ マウス/SINSIN AND THE MOUSE』
出演:岸井ゆきの ツェン・ジンホア 藤原季節 中田青渚 柄本時生 伊勢佳世 飯田基祐 リン・チェンシー エンジェル・リー リン・メイジェン 余貴美子
監督・脚本・編集:真壁幸紀
共同脚本:加藤法子
原作:吉本ばなな「SINSIN AND THE MOUSE」(新潮社刊「ミトンとふびん」収録)
サウンドプロデューサー:TAKU Tanaka
主題歌:藤原季節 asマサミチ「Let Me Feel You」
劇中絵本:「ないしょのおともだち」(ほるぷ出版)ビバリー・ドノフリオ:文 バーバラ・マクリントック:絵 福本友美子:訳
2026年/日本/カラー/スタンダードサイズ/5.1ch/108分/G
製作幹事・企画・制作プロダクション:ROBOT
共同幹事:TCエンタテインメント/前景娛樂有限公司
配給:カルチュア・パブリッシャーズ
Copyright (C) 2021 by Banana Yoshimoto All rights reserved.
Japanese original edition published by Shinchosha Publishing Co., Ltd., Japan in 2021.
The permission to use the original novel to produce this movie has been arranged with Banana Yoshimoto through ZIPANGO, S.L.
(C)2026映画「SINSIN AND THE MOUSE」FILM PARTNERS
https://www.culture-pub.jp/sinsinmovie/
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