[レポート]『母を亡くした時、僕は遺骨を食べたいと思った。』公開記念トークセッションで“生と死”の関係について考える

母を亡くした時、僕は遺骨を食べたいと思った。

宮川サトシの大人気エッセイ漫画を映画化した、『母を亡くした時、僕は遺骨を食べたいと思った。』は2月22日(金)より全国順次ロードショーとなる。
この度、本作の公開を記念して、監督の大森立嗣さん、原作者の宮川サトシさん、さらに特別ゲストとして国立がんセンター名誉総長で日本対がん協会会長・垣添忠生さんを迎えトークセッションが行われた。がん遺族であり、母の発病から旅立ちの日までをエッセイ漫画にしたためた宮川さんと、その日々を映画化した大森監督と共に、“がん”という病気について、また“生と死”を視点にした映画について熱く討論が交わされた。

『母を亡くした時、僕は遺骨を食べたい思った。』公開記念トークセッション 概要

日程:2月13日(水)20:30~
会場:アスミック・エース六本木試写室
登壇者(敬称略):大森立嗣(監督)、宮川サトシ(原作者)
垣添忠生(公益財団法人日本対がん協会 会長)

試写後のトークショーとなった本イベント。温かな感動に包まれた会場に3人のゲストが登場し、第一声に大森監督が「映画をご覧いただきありがとうございます。今日は垣添先生と一緒なのでちょっと緊張していますが、心してトークしたいと思います。楽しんでください」と挨拶をすると会場には温かな笑いが沸き起こった。
国立がんセンター名誉総長の称号を受け、長年に渡りがんの診断・治療に携わるだけでなく、自身もがんの経験を持つ垣添さんは自身を「私自身も大腸がんと腎臓がんのサバイバーです」と紹介。まず映画の感想を聞かれると、「抑制された色調と音楽と風景の中で、最愛の人を亡くす家族の姿、残された遺族の想いが非常に生々しくも美しく描かれており、とても感動いたしました」と映画を絶賛した。

映画について話が及ぶと、大森監督は「原作を映画化する際、僕は物語を母を亡くす前と、母を亡くした後に遺された家族がどう生きていくのかという2部に分けて考えました。サトシのお母さんにも、恋人の真里さんにもサトシへの気持ちをちゃんと伝えられるようにしたいと思いました。サトシが1人で受け止めようとしていることに対して、実は1人じゃないよ、みんながいるよ、という視点で描きたかったんです」と語った。
その話を受け、実は12年前に妻をがんで亡くしたことを明かした垣添さんは、「石橋蓮司さん演じる父の利明役にとても感情移入しました」と語り「妻を亡くした後、私は家では泣いてばかりでお酒ばかりを飲んでの3か月を過ごしました。ですから石橋さんの演技には大変胸を打たれました。本当につらかった自分の日々を重ね合わせました。映画のお父さんのようにコンビニ弁当ばかりでした」と当時のことを語ると「先生のような立派な方もそうなってしまうとは…」と原作者の宮川さんも驚きを隠せない様子だった。さらに垣添さんは「妻に先立たれた夫は、実際に寿命が2年短くなるという統計もあるくらいなんです。残されたものにとってはとてつもなく辛い経験。一人で立ち直れる方もいらっしゃいますが、中には遺族の心を助ける“グリーフケア”を必要とする方もいる。だから僕はそんな方が一人でも救えればと思いずっと願って活動しているんです」と述べ、会場からは感嘆の声が漏れた。

画像01

またがん宣告の方法についても話題に上がり、「昔は告げなかったが、今ははっきりと告げる時代になっていますね。体験者はみなさん頭が真っ白になると口をそろえておっしゃいます」という垣添さんの言葉に、「息子でも真っ白になってしまいました。“がん”という響きもなんだか重くて…。“がん=終わった”というイメージがあったんです」と宮川さんは正直に打ち明けた。それに対し垣添さんは「以前はがんも治療率40%だったが、今は65%まで上がってきている。確実に治療率があがっているのに、いまだに死のイメージが払拭できないので、私は全国行脚でがんサバイバーを支援して、その事実を人々に伝えていきたいです。これから10年もたったら、がんは誰でもなる、ごく普通の病気となります。そういう時代が必ず来ます。がん患者差別がなくなる社会がくるようにこれからも活動していきたい」と熱い思いを語った。

実際に抱えた悲しみを漫画にすることで、母の死を乗り越えた宮川さん。「母を亡くして7年目になりますが、喪失感はなくなりました。漫画に『死って何だろう、なんで悲しいんだろう』と俯瞰で物事を考え始めることで、楽に思えるようになりました。もはや、死を食べたような感覚で、母が亡くなったおかげで今の自分がいるのではないかと思うようになりました。死というエネルギーが力を与えてくれたような気がします」と当時を振り返ると、垣添さんも「私も妻を亡くして丸一年たって、『このままじゃだめだ』と自分を奮い立たせ、妻の病歴や自分の苦悩を書き始めました。僕も書くという行為が辛さを減らしてくれたと思います。そして書き記したものは知人のアドバイスで書籍化し、『妻を看取る日―国立がんセンター名誉総長の喪失と再生の記録』という本ができあがりました」と宮川さんの気持ちに理解を示していた。

これまでの映画を通し“生と死”について向き合ってきたと語る大森監督は、「僕は映画をつくるときにはいつも“生と死”を意識していますが、いくら考えても分からないものですよね。だから分からないものにどう向かっていくかということをいつも映画で探しています。はっきりとした答えは見つからなくても、『分からないや』とあきらめるのは嫌なので、足掻き続ける人々の姿をこれからも映画に収めていこうと思っています」と独自の映画への想いを語った。また最後に本作について「作っているときには、とても明るい現場だったのですがテーマは重みのあるものでした。しかしその重みからある程度の距離をもって悲しみすぎず、捉えることも大事だなとこの映画をもって学びました。僕なんか照れてしまうんですけど、少し恥ずかしい愛情表現も、宮川先生はまっすぐに伝えていて、笑いと涙が混じる素敵な映画になったと思っています」とコメント。

画像02

最後に、垣添さんが「命のバトンがつながるという、すごく明るい映画になったと思います。いつか人は死ぬけれど、先の先まで繋がっているというメッセージが込められている素晴らしい映画です」と監督に負けない完璧なコメントを残しイベントの挨拶を締めくくった。

ストーリー
頼りないが優しい息子・サトシと明るくてパワフルな母・明子。平凡でユーモラスな宮川一家の日常は、母が突然ガンを宣告されたことによって変化していく。サトシは恋人の真里に励まされながら母のために奔走し、家族は戸惑いながらも支えていく。そして…母と別れて1年後、やっと家族それぞれが新たな人生へのスタートをきった頃、サトシの元に突然、母からプレゼントが届く。それは、想像をはるかに超えた特別な贈り物だった――。

作品タイトル:『母を亡くした時、僕は遺骨を食べたいと思った。』
出演:安田 顕 松下奈緒 村上 淳 石橋蓮司 倍賞美津子
監督・脚本:大森立嗣
原作:宮川サトシ「母を亡くした時、僕は遺骨を食べたいと思った。」 (新潮社刊)
音楽:大友良英
主題歌:BEGIN「君の歌はワルツ」(テイチクエンタテインメント/インペリアルレコード)
製作:「母を亡くした時、僕は遺骨を食べたいと思った。」製作委員会
助成:文化庁文化芸術振興費補助金
2019年/日本/カラー/ビスタ/5.1ch/108分
配給:アスミック・エース

公式サイト:http://bokuiko-movie.asmik-ace.co.jp/
公式Twitter:@bokuiko_movie #ぼくいこ
コピーライト:(c)宮川サトシ/新潮社 (c)2019「母を亡くした時、僕は遺骨を食べたいと思った。」製作委員会

2月22日(金)全国順次ロードショー!

関連記事:
[レポート]『母を亡くした時、僕は遺骨を食べたいと思った。』キャスト&監督登壇!笑顔の絶えない完成披露試写会実施
■ 『母を亡くした時、僕は遺骨を食べたいと思った。』2/22(金)順次公開決定!BEGINの主題歌が流れる予告編&ポスター解禁
■ 映画『母を亡くした時、僕は遺骨を食べたいと思った。』監督・キャストも収録に参加!主題歌「君の歌はワルツ」のMV初公開
【プレゼント】安田顕主演『母を亡くした時、僕は遺骨を食べたいと思った。』トークイベント付き試写会15組30名様ご招待!

↑上に戻る