映画『大統領のケーキ』の試写会が6月22日に東京・渋谷で実施され、本作の舞台であるイラクにルーツのひとつを持つ元TBSアナウンサーの国山ハセンと、ライターのISOが登壇した。

本作は、第98回アカデミー賞(R)国際長編映画部門イラク代表であり、第78回カンヌ国際映画祭で、イラク映画として初めて監督週間観客賞とカメラ・ドール(新人監督賞)をW受賞、その他にも第33回ハンプトン国際映画祭 最優秀映画賞、審査員賞を受賞、第31回アテネ国際映画祭観客賞受賞、第73回サン・セバスティアン国際映画祭 観客賞ノミネートなど、世界の映画祭が絶賛した注目作。
物語の舞台は、1990年代、独裁政権下のイラク。祖母と二人で暮らす9歳の少女ラミアは、ある日、学校のくじ引きで「大統領のケーキ係」に選ばれてしまう。翌朝、ラミアは祖母に連れられて、父の形見の時計と、“友達”の雄鶏ヒンディとともに町へ出かける。だが、日々の食卓も満足に揃えられない祖母の目的はケーキではなく、ラミアを養子に出すことだった。思わず逃げ出したラミアは、自らの手でケーキの材料を集めれば、祖母との暮らしを続けられると信じて、クラスメイトのサイードと協力して町を駆け回る。

トークイベントの冒頭、国山は「私はイラクにルーツがある日本人なんですが、この作品を見終わった時に本当にいろんな感情が湧きました」と語り、「イラクという国を伝えてくれる作品が日本で上映されることを個人的にとても嬉しく思います」と作品への思いを明かした。
国山自身は日本生まれ日本育ちだが、父親がイラク南部のバスラ出身。また、自身が映画の舞台となっている1991年生まれでもあり、「生まれてからずっとイラクは戦時下で、なかなか情勢が安定しなかったこともあって当時は実際に行く機会はありませんでした」と振り返る。一方で、幼い頃から両親を通じてイラクの文化や宗教、当時の社会情勢について聞いて育ったことから、「行ったことはなくても、自分のルーツとして、自分ごととして見られた作品だった」と語った。

本作はハサン・ハーディ監督自身の実体験をもとに制作された作品。フセイン政権下の小学校で、大統領の誕生日を祝う行事の準備をしていた際の記憶が物語の出発点になっているという。
国山は母親と一緒に本作を鑑賞したことを明かし、「母はイラン・イラク戦争の時代にイラクで父と過ごしていたんですが、映画を見ながら『まさにこんな感じだった』と言っていました」とコメント。「戦争が続いた10年、20年の中で人々の生活は大きく変わっていなかったと思います。この映画はフィクションというより、当時のリアルを映している作品だと感じました」と語った。
また、ISOが「この映画を見て最も驚いたのはイラクの美しさだった」と話題を振ると、国山も深くうなずいた。「イラクというと、日本ではどうしても戦争や紛争のイメージが強いと思います。僕自身はルーツがあるので身近に感じていましたが、多くの人はニュース映像を通してしか知らない。そのため傷跡やネガティブな印象が先行してしまうんです」と説明。その上で、「どんな国にも美しさがあります。この作品は映画を通じてイラクの風景や人々の暮らし、その魅力を伝えてくれた作品だと思います」と語った。

ISOは、劇中に登場する雄大な自然風景について、監督に色彩補正の有無を尋ねたところ「調整はしていない」と返答されたエピソードを紹介。映画に映し出される景色そのものが、ありのままのイラクだという。これに対し国山は、「通常、映画では別の国や地域で撮影することもありますが、この作品はイラクで撮影し、リアルを映そうとしている。その思いが伝わってきます」とコメント。「父も映画や音楽が好きですが、中東には独自の文化やエンターテインメントがあります。そうした魅力を届ける“映画の力”を改めて感じました」と続けた。
さらに話題は、映画とジャーナリズムの共通点にも及んだ。国山は「私が報道機関を目指した理由の一つは、イラクなどの現実を伝えたいという思いがあったからです」と告白。「何が起きているのかという事実だけでなく、文化や美しさも含めて伝えなければ伝わりません。そうした使命感が、メディアや報道の世界に興味を持つきっかけになりました」と明かした。
そして、「この作品はドキュメンタリーとも違うし、かといってエンターテインメントに振り切っているわけでもない。その絶妙な掛け合わせによって、当時のイラクの状況を伝えている」と高く評価。「僕は映画監督ではありませんが、映像で何かを伝えたいという思いは強く持っています。ハサン・ハーディ監督が、映画という形で僕の夢を叶えてくれたような気持ちになりました」と語り、作品への深い共感を示した。

イベント終盤には、戦争や政治に翻弄される子どもたちの存在についても言及した。「今も中東情勢は不安定ですし、世界各地で戦争が続いています。その中で最も影響を受けるのは子どもたちです。この映画を通して、その存在を強く感じました」と語る国山。「遠い場所の出来事かもしれませんが、他人事ではなく自分ごととして捉えてほしい。映画の力で知ることが、その第一歩になると思います」と来場者へ呼びかけた。
最後にISOも「まずはこの映画の圧倒的な美しさを劇場の大きなスクリーンで体験してほしい」と呼びかけ、トークイベントは締めくくられた。



