【レポート】『モロッコ、彼女たちの朝』名店シェフが解説!知られざる伝統のパンや女性の暮らしのリアルとは

モロッコ、彼女たちの朝

第92回アカデミー賞モロッコ代表作『モロッコ、彼女たちの朝』が、8月13日(金)TOHOシネマズ シャンテほかにて全国公開されるのに先駆け、モロッコ料理店「エンリケマルエコス」オーナーシェフの小川歩美さんをゲストに招いたアフタートークショー付き特別試写会が実施された。

主食がパンであるモロッコ。街角のパン屋が舞台である本作には、珍しい伝統の手ごねパンが多数登場する。モロッコに5年間住んで料理の修行をした小川さんが、それらのパンの気になるお味やモロッコの食文化、そして、なかなか触れることのできない女性たちの暮らしについて、映画の感想を交えながら語った。

『モロッコ、彼女たちの朝』トークイベント付試写会

【日時】7月27日(火)
【場所】ユーロライブ
【ゲスト】小川歩美さん(モロッコ料理 エンリケマルエコス(http://cuisinedumaroc.jp)オーナーシェフ)

会場の客席で観客と一緒に映画を鑑賞した小川さん。本作について、「改めて劇場のスクリーンで鑑賞して、私が明日モロッコに行ったらきっとこの空間で生活するんだろうなというくらい、モロッコのリアルな日常生活をそのまま描いた作品だったと感じました。2021年の今もカサブランカの旧市街では、昔の時代にも感じられるような素朴な生活をしていますよ。」と本作で描かれているモロッコの人々の暮らしについて話した。

華やかなピンク色の衣装に身を包んで登場した小川さん。劇中でサミアも身につけていたこの服はモロッコの伝統的な日常着である「ジュラバ」と呼ばれるもの。「モロッコはイスラム教の国。女性は伝統的に、ボディラインなど魅力的な部分を外に出さないようにしているんです。」とその文化について触れ、「でも、モロッコはいろんな文化が混ざっているので、こういう風にジュラバを身につけて生活している人もいれば、ジーンズにTシャツで生活している人もいる。いろんなチョイスがあるのが面白いんです。」とモロッコの魅力について語った。

モロッコ、彼女たちの朝

パン屋が舞台の本作。日本ではあまり馴染みのない、さまざまな種類のパンが登場するが、その中でも特に印象的で、物語の伴となる紐状のパンケーキ「ルジザ」について聞かれると「ルジザは小麦粉と塩と水でできたシンプルで素朴なパン。食感がサクサク、カリカリで面白い。映画では何もつけず食べていたが、現地では蜂蜜をつけて、手で食べることが多いです。」とその味や食べ方についてコメント。さらに「フォーマルな席では、食事前に係の者が桶とヤカンを持ってテーブルを回り、そこで手を洗って口をすすぐという作法があるんですよ」と語り、実際に現地で生活したことのある小川さんならではの経験談に会場からは感心の声が上がった。

またモロッコ版クレープと言われる「ムスンメン」について、「モロッコは1日5食の国。朝と昼、昼と夜の間におやつの時間がある。その時に食べられるのがムスンメンやルジザといったもの。ムスンメンは基本、家でお母さんが焼くもので、各家庭の味があり、材料の微妙な配合によって味が変わってくるんですよ。」と話し、「ムスンメンとミントティーを一緒に食べるのがモロッコ定番のおやつスタイル。」と語った。さらに「ムスンメンは誰もが好きな食べ物。でも、作る工程を見ると食べられなくなる。クロワッサンのような層を作るために油とバターを生地に練り込んでいくためカロリーが高く、太ってしまうから。」とコメントすると、会場は笑いに包まれた。

モロッコ、彼女たちの朝

カサブランカで女手ひとつでパン屋を営むアブラと、その扉をノックする未婚の妊婦サミア。ふたりの女性が共に過ごす旧市街(メディナ)の家やその暮らしぶりについて聞かれると「明日、カサブランカの旧市街(メディナ)に行ったらこの景色がある!」と作品のリアリティについて太鼓判を押し、「モロッコの街は旧市街と新市街に分かれていて、旧市街にはモロッコの昔の暮らしが残っているのですが、新市街には新しいアパートが立ち並び、渋谷のようなショッピングセンターもある。その対比が面白いんです。」と現地の街並みについてコメントした。

監督自身の、見知らぬ未婚の妊婦を家で匿い、世話をしたという実体験が元になっている本作。そういった境遇の女性たちについて話が移ると、「家父長制だけでなく宗教のためもあって、女性の生きづらさはある国。婚外交渉や中絶が違法で、未婚の母に対して、”家の恥”だと考える日本の50年以上前のような感覚がモロッコには存在する。例え、一人で無事に出産して子供を連れて家に帰っても、家族に受け入れてもらえないという現実がある。身投げしてしまう女性の話もよく聞きます」とコメント。それでも最後には「モロッコはヨーロッパに近く、それら地域の新しい文化がどんどん入ってきている。今のモロッコの王様は、欧米の文化を取り入れる先進的な人。時代に合わせて社会も変わっていくのではないかと思います。」とモロッコの未来について述べた。小川さんのリアルで豊かな経験談に会場は大いに盛り上がり、トークイベントは終了した。


イントロダクション
カサブランカで女手ひとつでパン屋を営むアブラと、その扉をノックした未婚の妊婦サミア。思いがけぬ出逢いが、ふたりの人生に光をもたらしてゆく―。新星マリヤム・トゥザニ監督が、過去に家族で世話をした未婚の妊婦との思い出をもとに作り上げた長編デビュー作。家父長制の根強いモロッコ社会で女性たちが直面する困難と連帯を、フェルメールやカラヴァッジョといった西洋画家に影響を受けたという豊かな色彩と光で、美しく描き出した。

本作は2019年のカンヌを皮切りに世界中の映画祭で喝采を浴び、女性監督初のアカデミー賞モロッコ代表に選出。さらに、現在までにアメリカ、フランス、ドイツなど欧米を中心に公開され、ここ日本でも初めて劇場公開されるモロッコの長編劇映画となった。製作・共同脚本に、本年度カンヌ国際映画祭のコンペティション部門に監督作が正式出品された著名監督で、トゥザニ監督の夫でもあるナビール・アユーシュ。主演には『灼熱の魂』のルブナ・アザバルと、日本に初紹介されるニスリン・エラディ

ストーリー
臨月のお腹を抱えてカサブランカの路地をさまようサミア。イスラーム社会では未婚の母はタブー。美容師の仕事も住まいも失った。ある晩、路上で眠るサミアを家に招き入れたのは、小さなパン屋を営むアブラだった。アブラは夫の死後、幼い娘のワルダとの生活を守るために、心を閉ざして働き続けてきた。パン作りが得意でおしゃれ好きなサミアの登場は、孤独だった親子の生活に光をもたらす。商売は波に乗り、町中が祭りの興奮に包まれたある日、サミアに陣痛が始まった。生まれ来る子の幸せを願い、養子に出すと覚悟していた彼女だが……。

作品タイトル:『モロッコ、彼女たちの朝』
出演:ルブナ・アザバル『灼熱の魂』『テルアビブ・オン・ファイア』、ニスリン・エラディ
監督・脚本:マリヤム・トゥザニ
製作・共同脚本:ナビール・アユーシュ『アリ・ザウア』
2019年/モロッコ、フランス、ベルギー/アラビア語/101分/1.85ビスタ/カラー/5.1ch/英題:ADAM/日本語字幕:原田りえ
提供:ニューセレクト、ロングライド
配給:ロングライド

公式サイト:https://longride.jp/morocco-asa/
公式Twitter:@morocco_asa
コピーライト:(C) Ali n’ Productions – Les Films du Nouveau Monde – Artémis Productions

8月13日(金)、TOHOシネマズ シャンテほかにて全国公開

 

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