「精神科医療の7つの不思議」

「精神科医療の7つの不思議」病院で聞けない話、診察室では見えない姿
ライフサイエンス出版、夏苅郁子著

前作「人は、人を浴びて人になる」では、人との出会いを通して、夏苅先生が回復されていく過程が書かれてありましたが、今作「精神科医療の7つの不思議」では、精神科医療の課題ともいえる内容が「7つの不思議」という見出しで浮き彫りにされていました。

その7つの不思議とは…

不思議①「病名」を言われずに、何十年と通院している患者さんがいる

不思議②何十年も薬を飲んでいるのに、ゴールが見えない

不思議③精神疾患の原因や薬を見つけるための研究が進んでいない

不思議④医師から「統合失調症はありふれた病気」と言われる

不思議⑤「病気」を自覚できない人もいるのに、病院へ行かないと治療をされない

不思議⑥思春期の患者さんの入院に適した病院がほとんどない

不思議⑦成人した患者さんに対して、なぜ「家族会」が必要なのか

この7つの不思議は「精神科医」としての夏苅先生には、「当たり前」だと思ってきたこと。でもこの10年、診察室を飛び出して全国の患者さんやご家族と近い距離で交流する中で、患者さんやご家族の目には「不思議なこと」として映っていたと知ったと本書の中で書かれていました。

各章は患者・家族の経験をベースにした「精神科医としての考察」と後半では「患者・家族としての私の願い」として、提案が書かれてあります。

新宿フレンズ家族会の会長が、会報の中で「実にストレートに患者、家族の声を代弁してくれている。」とこの本の感想を書いていましたが、私も同感で、「患者」「患者の家族」「精神科医」という3つの視点がある夏苅先生だからこそ書ける非常に説得力のある内容でした。

かなり濃い内容なので、何回も読み直して、各章の課題をじっくり反芻して考えようと思っています。

そうそう。第7章の不思議⑦では、私が願ってきた「ケアしなくてもいい権利」と「ケアする権利」についても触れられており、とても嬉しかったです。

この両方の権利が与えられるからこそ、「義務」ではなく「自分で選んだ選択肢」としてのケアが、そして「ケアが重荷になったときに、荷をおろせる安心感」のもとに支援者となれるのだと実感しています。ここ最近、ヤングケアラーという言葉をよく耳にするようになりましたが、ヤングケアラーだった私としては、これからの若い人たちが、若い時だからこその成長できる大切な時間を、家族のケアで追われて奪われないようなシステムができるといいなと願っています。

さいごに…174ページに

『もしもまた、あの金沢のステージに上がることがあったなら、今度は「ちっちゃくて、儚げな夏苅さん」ではなく「堂々と、しっかり歩む夏苅さん」としてみてもらえたらいいなぁと願っています。そう言われるように、これからも努力していきたいと思います。』と書かれてありましたが

「家族」としての夏苅さんに、一番最初に出会った私としては、

もう随分前から「堂々と、しっかり歩む夏苅さん」で、「儚げ」ではなく「キュートだけれど芯のある」素敵な人生の先輩だと思っています。